南極石(Antarcticite)は、塩化カルシウム6水和物の化学組成を持つハロゲン化鉱物。室温環境下で融解することを特徴とする鉱物の1つとして知られる。天然で産出する塩化カルシウムの鉱物は、南極石のほかには2水和物のシンジャル石 (Sinjarite) しか知られていない。また、この2種のどちらかに分類される可能性がある野外名のハイドロフィル石 (Hydrophilite) がある。
南極石は、1963年に日本の探検家鳥居鉄也が南極大陸のドンフアン池で発見し、発見した池の名を採ってドンファン石 (Donjuanite) という名称で登録申請が出された。しかし「ドンファン」の発音がスペインの伝説のプレイボーイであるドン・ファンと同じになるため却下された。小坂丈予は自らの恩師の南英一にちなみ「南石」という名前にしようとしたが、南教授が辞退したため、1965年に南極石として登録された。南石という名前は南教授の死後、小坂によって万座温泉で発見された鉱物につけられた。
南極石は約25℃で融点に達し、液体化する鉱物である。室温程度で融解する鉱物は、融点が0℃の氷 (Ice) と、-38℃の自然水銀 (Mercury) しかなく、非常に珍しい。有史以前より知られていたこれら2種と異なり、新種として報告されたのは南極石が最初である。鉱物は固体の結晶物質という定義があるが、報告された場所は低温環境下であり、固体として産出するため、この定義には抵触しない。
南極石は希産であるため、直接的な用途はない。しかし約25℃で融点に達する珍しさから、その希産性もあいまって鉱物標本としての販売がされている。ただしそれは採集が制限されている原産地の南極大陸のものではなく、アメリカ合衆国のブリストル湖産のものである。また室温で液体化するため、通常は瓶に入れられて販売されている。