津軽塗は代表的な4種類の技法(唐塗、七々子塗、錦塗、紋紗塗)を持ち、これらを基に作られている。技法的には、髪漆【きゅうしつ】(塗りの技法のこと)研ぎ出し変わり塗りであり、 すべての技法が漆を数十回塗り重ね、研磨仕上げを施す三百年以上も変わることなく受け継がれてきた伝統技術である。 故に津軽塗は模様であり、塗りである。 底から発する奥行きがあり、器にへばりついた力強さがある。多くの産地の漆器は、塗装した上に模様が付いている。
ななこ塗は研ぎ出し変わり塗りの技法の一種で、その特徴は、模様をつけるために菜の花の種を蒔き付けることである。 菜種による小さな輪紋の集まりが魚の卵を連想させる模様から、「七子」「魚子」「菜々子」「斜子」などの文字が当てられている。
津軽塗における七々子塗の歴史は定かではないが、津軽塗独自の塗とは思われない。 例えば延宝六年(一六七八)の加賀藩の工芸標本『百工比照』の中に、「ななこ」の名称が見られる。 また小浜藩の藩医が延宝年間に記した書物にも「魚子塗」の言葉が見える。恐らく、藩政時代に他藩との交易ルートを通じて伝播したものと思われる。
津軽塗の塗模様より抜粋