トンコリはアイヌに伝わる伝統的な弦楽器で、通常は五弦であることから「五弦琴」と訳される。三弦や六弦の物もあるが、非常に稀で文献の絵図や写真、現物で確認できるもののほとんどは「五弦琴」である。
江戸時代には北海道の宗谷地方やオホーツク沿岸地域、天塩(美深)などでもほぼ同じ楽器が存在し「カー」と呼ばれ演奏されていた文献記録があるが、近代までに伝承は途絶えた。現在判明している製作法や演奏法は、すべて樺太アイヌのもの。
松浦武四郎『天塩日誌』によると、オクルマトナイのエカシテカニ宅に寄宿した際、エカシテカニの妻がトンコリを演奏して聞かせた。その感慨を「かきならす 五の緒ごと 音さえて 千々の思いを われも曳きけり」と短歌に詠んだ。
ギターとは違い、胴体部は細長く平べったく直線的な作りで先端は尖っている。胴部には意匠が施されている事もある。各部はアイヌ民族の他の民具同様に人体になぞらえて呼ばれる。ギターヘッドやネックに相当する部分は同様に頭、首と呼ぶ。
弦を巻き付ける部位を耳、胴体先端の尖った部位は足、足にある弦の付け根はそれを覆うように動物の毛皮を貼り付け、これを陰毛と呼ぶ。その裏側は尻等と呼ぶ。胴部中央にはへそと呼ぶ穴があいていて、そこにラマトゥフ(魂)と呼ぶガラス玉を入れる。
ギター等と異なりフレットがないだけでなく、弦を指板におしつけて音を変えることなく、開放弦のまま演奏する。基本的には弦の数(つまり五音)しか音が出ない。調弦は樺太の東海岸と西海岸とで違うとされる。