埼玉県草加市に日本で唯一、幼児用玩具の「おきあがりこぼし」を製作するメーカーがあると聞いた。訪ねたおもちゃ製造「ミツワ」はまさに町工場そのものの雰囲気だ。案内されて2階の組み立てラインに入ると、いきなりコロンコロンと、耳に心地よい音色が飛び込んできた。3人の女性従業員がおきあがりこぼしの頭と胴体、リボン、お面、手玉と手際よく組み立てている。音の正体は完成間近のおきあがりこぼしが奏でるチャイムだった。
「いい音でしょう。うちの『おきあがり』の特徴はこの音色なんです。単純だけど、中国製にはまねできないノウハウがあるんですよ」と胸を張るのは、案内してくれた社長の山本克人さん(60)。「胴の天と地をしっかりつけないといい音が出ないんだ」と言いながら、おきあがりこぼしの心臓部だという筒状のオルゴールを胴体にセットして見せてくれた。
雑然とした1階に降りると製造ライン。2人の男性職人が金づちを振り、長さが違う7本のピアノ線を鋳物に植え込んでいた。オルゴールの組み立て作業だ。おきあがりこぼしが傾き、ピアノ線に振り子が当たると、音が出る仕組みだ。別の職人は板状のプラスチック生地をプレスで成形していた。おきあがりこぼしの頭や胴などの部品はここで出来上がる。
ミツワの幼児用おきあがりこぼしは幼児・知育玩具「ローヤル」(東京)に納入し、「ポロンちゃん」などの名前で店頭に出ている。このほか、自前で犬や猫をデザインした球形のおきあがりこぼしなどのオリジナル商品を開発し、販売にも力を入れている。
【彩の国 工場見学(4)】より抜粋