昼下がりの公園で暗殺者(翁華栄)は王妃(りりィ)を刃物で刺す。
「あのものを逃がすな!アスカを守れ」と苦悶しつつ王妃はモノリオ(本郷奏多)に命じる。
モノリオは暗殺者を追跡し、その後を広一(中村蒼)とみどり(桜井美南)が追う。モノリオは追跡者を追い詰める。
ハーデス「俺は、戦わないよ。生身の人間がヒューマノイドと戦って、勝てるわけないだろう。これでやっと辛い思いから解放される。ありがとうよ。」
暗殺者は、モノリスによる自決を行った。
モノリスは異次元回廊の出入り口を開くことができるが、同調していない異次元に飛び込めば物理的存在は消滅する。霊魂を含めた全存在がどうなるのかは不明らしい。広一とみどりは見てはならぬものを見た。しかし、心優しい二人の高校生は瀕死の王妃を見捨てることはできなかった。
王妃は、仮の王宮である江原家の帰還を求めた。
「なんとかせよ」とアスカ(杉咲花)はモノリオに命じる。
典夫「レイバーがオンラインになりません」
アスカ「モノリオ、おばあさまを助けてくれ」
典夫「現地の医療機関を使います」
アスカ「しかし」
典夫「モノリスのマギで、なんとか秘密を保持します」
アスカ「そうか頼む」
いよいよモノリスのエネルギー残量は少ないらしい。
王宮には、江原老人(ミッキー・カーチス)の姿しか見えない。
ワケが分からなくなった広一は、アスカに説明を求めた。
広一「何なんだよ、一体。説明してくれよ。」
アスカ「誰にも言わないで。お願いだから、秘密にしておいて。その代わり、何があったのか全部話すから。私たちがどこから来たのか。一体何があったのか。」
広一「わかった。わかったよ。話はあとで聞くから。落ち着いて、アスカ。泣くなよ、アスカ。ほら、今はやるべきことをやろう。」
電話で救急車を呼んでいたモノリオが戻ってきた。
典夫「姫様。」
アスカ「救急車は?」
典夫「王妃様が、どうしても呼んではならぬと。」
アスカ「そんな…。」
広一は、廊下に広がる王妃の血痕を見て気が動転する。
広一「とにかくこれをふきとらないと…いや、拭き取っちゃまずいか」
「タオルがいるわね」と広一よりも冷静なみどり。
しかし、バスルームでみどりは悲鳴を上げる。
バスタプでは、アゼガミ(中野裕太)とスズシロ(佐藤乃莉)が抱き合ったまま絶命していた。
おそらく絶望して心中したものと思われる。
典夫「お2人に、王妃様からお話があるそうです。」
王妃「アスカ、モノリスを貸してちょうだい。2人には、これが何に見える?」
広一「初めて見た時は、スマホだと思ったけど…。」
みどり「石?」
王妃「モノリスは…。(ゴホンゴホン…)説明してあげて。」
典夫「モノリスは、君たちの使っている携帯端末のようなものだが、その能力は、君たちの想像をはるかに超えているかもしれない。君たちの携帯端末は、電話から進化したそうだが。携帯電話もなかった時代に、電話がそのような進化をするなんて、誰も想像できなかっただろう。と言えば、少しは理解しやすいのかもしれない。モノリスの場合、その進化は電話からではなく、マルスから始まった。」
広一「マルスって何?」
典夫「生物であり鉱物、液体であり固体。動物と植物の特性を併せ持つ、人間より優れた知能を持った物質。それがマルスだ。」
みどり「意味がわからない。」
王妃「理解するのは難しかろう。我々ですら数百年、この物質の謎に、挑み続けてきたが、まだほんの、わずかな一端しか把握できてないのだ。そのわずかな部分を、人類は活用し、それだけでも、劇的なくらい、文明は変わった。そのモノリスも、マルスの恩恵によって、生まれたものの一つだ。」
アスカ「マルスは、D-1と呼ばれる世界に、どこからかもたらされたとされているが、詳しくは分かっていない。D-1は滅んだからだ。D-1から脱出した何者かが、我々D-8にマルスを持ち込んだ。」
広一「その、D-1とか、D-8とかいうのは何なんだよ?」
アスカ「いわゆるパラレルワールドだ。宇宙の時空は歪んでいて、波紋のように広がっている。D-1とD-8の間、D-8とD-12の間にも、異なる世界は存在するが、我々D-8が観測した、あるいは仮定された世界をナンバリングしたものがその名称だ。D-12世界を発見した人物が、広一の大好きな…。」
広一「H・G・ウェルズ?」
典夫「ああ。彼はD-8世界とD-12世界を行き来し、次元移動技術の先駆者となったが、マルスの暴走を誰よりも危惧した人物でもあった。」
王妃「残念ながら、運命は彼の危惧するとおりになったのだが…。」
典夫「マルスは最初、単なるレアメタルだと思われていた。だが、この物質はゆっくりではあるが増殖し、分裂することがわかった。さらには反重力を持ち、自ら移動することもわかった。そして、時空間移動する物質であり、エネルギーを生み出すこともわかった。約200年で、マルスは人類の中心的なエネルギーとなった。社会システムは全てマルスに依存し、もはやそれなしでは生きていられなくなった。やがて、マルスをベースに、グランドと呼ばれるシステムが出来上がった。200トンのマルスが、我々の複雑な社会を管理し、人類を支配した。」
王妃「グランドは、枯渇する資源を、異次元に求め始めたのだ。D-4、D-5は、30年で壊滅し我々はその資源を欲しいままに貪った。そんな、15年前のある日…。」
アスカ「7月のある夏の日だった。大きなゾーンが外から開かれ、ある兵器が投げ込まれた。誰がやったのかはわからない。我々と同じ能力を持つ異次元人のしわざでしょう。そして我々同様、マルスの力を持つ者のしわざでしょう。その兵器は「アンゴルモア」と呼ばれた。アンゴルモアの放つ火は何人の侵入も許さず、青い光を放って燃え続けた。1度付いたら消えない火。世界は放射能に汚染された。けれども人類はグランドを信じ続け、マルスを頼り、猛烈に人口を減らしながらも何とか生きてきた。けれど去年、再びゾーンから火が投げ込まれた。今度は100の火が100のゾーンに、同時に世界に放たれた。これが「プロメテウスの火」。」
王妃「世界は火に包まれた。我らは、かろうじてこの地へ逃げた。そなたたちには、信じられないかもしれないが、これが、我らに起きた出来事なのだ。モノリオ、アイデンティカの話を。」
典夫「はい。異次元世界とは、互いに極めて似て非なる存在です。この世界にモーツァルトはいるけど、ショパンはいない。そんなわずかな違いがあるのです。だけど、アーサー・C・クラークはどちらの世界にもいる。この世界のアーサー・C・クラークは小説家だったけど、僕らの世界では、物理学者だった。ということは、お解りでしょう。どちらの世界にも同じ人間がいるのです。ある一定の確率で。こうした者同士を、我々の言葉でアイデンティカと呼ぶのです。」
アスカ「私の亡くなった許婚のナギサは、この世界では岩田広一という名で生きていた。」
広一「俺? 」
みどり「よく似ているの?」
典夫「同一人物です」
アスカ「あなたは私の許婚のアイデンティカ。そしてあなたの妹は、私のアイデンティカ。」
王妃「岩田広一。そなたには、我が国の王の資格がある。ぜひ、この国を、引き受けてくれないだろうか? モノリオ…。」
典夫「はい。」
王妃「王の欄を空欄としてある。そなたの心が決まったらここにサインを。今は考えられないだろうが、そなたには時間がたっぷりある。ゆっくり考えてくれればいい。だが、私にはもう時間がない。王妃として、言っておかなければいけないことを言った。さあ、これで私の務めはおしまい。あとは2人に任せます。」
「このD-12の世界は、美しい。青空など、久しく見てなかった。空も、花も、雨さえも美しい。できることなら、この世界で平和に暮らしたかった。今は…ただ眠りたい。少し…眠りたい。」
典夫「王妃は今、崩御されました。」
アスカ「おばあさま」
アスカは膝を落し号泣した。
広一とみどりは立ちつくした。江原老人は念仏を唱えた。
典夫「遺体はゾーンに落として葬る。ゾーンは別の次元に繋がっている。この次元と同期していない次元に落とせば、一瞬でちりになる。隕石が落下する前に燃え尽きるのと似ている。」
アスカ「待って。」
アスカは、みどりの贈った花を王妃の亡骸に供える。
アスカ「さようなら。おばあさま。」
モノリオはゾーンを開き王妃を葬った。アゼガミとスズシロを葬ればモノリスは尽きる計算になる。
「もう一つだけ聞いてくれ」と葬儀を終えたアスカは言う。
広一とみどりは異世界からきた少女を見つめる。
アスカ「今日はすまなかった。そなたたちを苦しませる結果になってしまった。王妃の話だが…広一が王となる話だ。あれは忘れてくれ。あれにサインしたところで、もはや意味がない。もはや我らに統べる民はおらん。あともう少し話をしたい。うんざりせずに聞いてほしい。」
みどり「何?」
アスカ「私はじきに死ぬのです。プロメテウスの火を見てしまったから。」
と言いながら放射線障害で抜ける髪を見せるアスカ。
広一「アスカ…。」
アスカ「ねぇ、広一…。みどり…。信じてほしいの。私たちの話を。これはみんな本当のことよ。嘘じゃないわ。せめて2人だけには、私たちの世界を記憶にとどめておいてほしい。」
広一「信じるよ。」
みどり「私、何もわかってなかった…。ごめんね…。」
(突然倒れ込むアスカ)
みどり「アスカ!」
眠りについたアスカを残し、広一とみどりは帰宅する。
「彼女の病気、なんとかならないのか」とモノリオに問う広一。
「できるものならなんとかしている」とモノリオは答えた。
広一は夜路をたどりみどりを家へと送る。月が二人を見下ろす。
みどり「ねぇ、見て。きれいな月。」
広一「おお。」
みどり「そういえば、ここで流れ星見たね。」
広一「うん。」
不意に広一は、みどりを抱きしめた。
広一「俺は…やっぱりみどりのことが好きだ。」
みどり「なんで? 今…。そんな…。」
みどりは、広一の手を宥めるように撫でた。
一方、窓辺で目覚めたアスカは月を眺めていた。
アスカ「見よ。美しい月だ。」
典夫「姫…。」
アスカ「まだ泣いているとでも思ったのか?もう泣きはせぬ。ただ1人であろうと、我は王女アスカだ。」
典夫「はい…。」
アスカ「大丈夫か? 泣いているのではないのか?」
典夫「いえ…。」
アスカ「泣いてみよ。」
典夫「泣いてみたいです。…泣いてみたいです。」
そういうアスカの瞳からこぼれる涙。
アスカ「決めた!」
典夫「何をですか?」
アスカ「明日から毎日好きなことをする。」
典夫「好きなこと? 今までもずっとそうだったのでは?」
アスカ「うるさい!」
物事を深く考えさせられた話だった。TVなのだからD8世界で起こったことをCGでも良いから描写して欲しいと思ったが、セリフだけで説明されていた。これだけのセリフを暗記する俳優もすごいと思ったが、恐らく放送尺が足りないのか予算の都合で作れなかったのかどちらかに違いない。昨年9月になぞの転校生をリメイクすることが決まり、先に予告編を作る事情からハーデスがゾーンに落ちるシーンも昨年12月初めころに撮影された模様。ただ第八話の王妃の手術でモノリスが大量に使われて発動されたシーンは見事だった。
【用語解説】
グランド・・・200トンのマルスを投じて開発された人間社会管理システム。
グランドの名の下に世界の平等を目指す思想はグランディズムと言われ旧政府の思想の中心であった。これに反発したのが革命軍であり、もはや権力すら持たなかった王家を奉じて革命を起こし、政府を打倒した。
アンゴルモアの火・・・1999年、大きなゾーンからD-8世界に投げ込まれた核兵器。一度爆発を開始すると、核融合反応を繰り返し、消えることがない。その炎は青い。
第十一話終わり