江原正三(ミッキーカーチス)は、見知らぬ闖入者に驚く。
江原「わぁ、また何か現れた。誰だ!お前…」
典夫「・・・」
しかし、ひび割れた石膏で固められたような少年は答えない。
認知症の江原老人は、喘ぐように移動して隣人に危機感を伝えようとする。
ピンポンピンポンピンポン・・・
江原「知らない誰かがいる」
君子「はあ・・・」
しかし危機というものを知らない主婦である岩田君子(濱田マリ)の反応は鈍い。
江原「若い奴なんです」
君子「お孫さんじゃないんですか」
江原「孫…あんな孫はいなかったと思うけれど」
江原老人は自信を失う。孫を忘却してしまっただけかもしれない。失われて行く記憶の海で溺れかけている認知症患者の不安と孤独と焦燥。所詮他人事である。江原老人を追い払った君子は家族に朝の話題を提供する。
君子「隣のおじいちゃんにも困ったものねえ」
亨 「おい広一、そういう施設のこと調べたか?」
面倒なことを誰かに押し付けたい亭主の岩田亨(高野浩幸)は息子に矛先を向けるのだった。
日曜日だからのんびりしたいのである。
「ええっ」と広一(中村蒼)は中途半端な態度で応じるのだった。父親がのんびりしたい気持ちも分かるが、自分ものんびりしたいのである。なんてったって日曜日なのだ。
そこへ世が世なら盗撮犯として警察に厄介をかけているかもしれないクラスメートの大森健次郎(宮里駿)から「草野球の誘い」の連絡が入る。
痴呆化した老人の世話と友人との付き合いを天秤にかけた広一は、後者を選択するのだった。
老人の部屋で入浴し、老人の衣装で身だしなみを整えたなぞの少年は目を不気味にチカチカと発光点滅させながら部屋を出る。そして広一と遭遇するのだった。
広一「君は・・・」
典夫「起動して間もないので、2時間ぐらいで全てのファイルのインストールが終わります。その間はあまり、動いてはいけないことになっています。動作が不完全になりますし、喋ってはいけない話をうっかり喋ったりしてしまうこともあったり…する事もあります。ホントは数時間の安静が必要なんですが、僕にはあまり時間がないのです。」
広一「え・・・」
典夫「そういうことなのさ」
広一「どういうことなんだ?」
どこか狂気を感じさせる少年の態度に穏やかに応じる広一。
典夫「つまり、時間が足りないのだ」
広一「忙しいってこと。お隣の人ですか?」
典夫「・・・孫です」
広一「ああ、そうなんだ」
納得して通り過ぎようとする広一。
典夫「君・・・」
遠くを見ながら語る謎の少年。
広一「僕・・・」
典夫「そうさ君に話しかけている」
広一「そうなんだ・・・」
典夫「君は何者だ」
広一「いや、となりの者ですけど」
典夫「隣・・・」
広一「うん」
典夫「・・・」
突然、歩きだす謎の少年。マンションを出た少年と広一の向かう方向は同じだった。
広一「なぜ、ついてくる?」
典夫「いや、向こうに用があるんだ・・・」
広一「じゃ、お先にどうぞ」
妙な奴だと思うものの、広一は大森の待つ野球場に向かうのだった。
謎の少年は相変わらず、尋常ではない光を目から発しながら街を眺める。
そして運命に導かれ広一の幼馴染である香川みどり(桜井美南)の花屋に向かうのだった。
みどり「いらっしゃいませ」
典夫「素晴らしい・・・」
みどり「・・・」
典夫「初めて見ました。」
みどり「えっ? どれを?」
典夫「花をです。」
みどり「花を?」
典夫「本物の花は初めてです。綺麗ですねえ。」
みどり「ガーベラなら、いろいろな色がそろってます」
典夫「色・・・」
みどり「適当に選んで花束をお作りしますか?」
典夫「花束か、良いですね」
みどり「他には何か、お好きな花がありますか?」
典夫「好きな花・・・」
みどり「月並みですけど、薔薇とか」
典夫「薔薇、美しい花ですね」
みどり「どうでしょう」
典夫「とても綺麗だ」
みどり「1500円になります」
典夫「おカネは持っていません。なので、お花は結構です」
みどり「・・・これ一つどうぞ。差し上げます。」
みどりは、白い花を一輪差し出した。
典夫「ありがとう。」
みどり「これでいいですか?」
典夫「はい。ありがとうございます。(よろけて) 失礼。」
「まだちょっとインストール中で、バランスがうまくコントロールできない。」
具合が悪いの?とか聞かないみどりだった。なぜなら、既に少年の美しさにうっとりしている。
典夫「さようなら。」
微笑んで少女の贈り物を素直に受け取る少年。仄かな恋の始りである。
思わず花に見入る少年。見知らぬ少年の横顔に、思わず見入るみどりだった。
みどり「何? あの人…。変な人。」
密かに好意を寄せている幼馴染のみどりが一足早く大人の階段に足を踏みかけているのに、のほほんと草野球に参加する広一だった。なぜかクラスメートの春日愛(宇野愛海)も参加しているのだった。
広一「なんで愛がいるのさ?」
しかし広一が入ってもまだ一人足りない大森チーム。そこへ花を持った少年がグラウンドにやってくる。
一同「おい!?君?」
典夫「僕・・・」
広一「野球をやらないか」
典夫「野球・・・」
その時、少年は見慣れぬ機種のスマートホンを操作する。
典夫「野球か・・・」
広一「やったことあるだろう」
典夫「やったことはないが、ルールは知っている」
少年は花を広一に渡し、逆にバットを持って打席に入る。
相手チームにとっては、待ちかねたプレーボールである。
そして、初球をとらえてホームランを放つ少年だった。唖然とする一同。しかし、少年は動かない。
広一「おい、ホームランだよ」
典夫「ホームラン」
広一「ダイヤモンドを一周するんだ」
典夫「宝石を・・・」
広一「本当に知らないのか?ヨーロッパ人かよ」
典夫「・・・」
少年の手をとって一塁に向かう広一。その光景に「なんて絵面だ」と叫ぶ愛だった。
試合は大森チームの勝利で終わった。帰る方角が一緒の典夫と広一は・・・
典夫「野球というものは難しい。喜んでいる者も、悔しがっている者もいた。一体何がしたいゲームなんだ?」
広一「初めてやる人からしたら、難しいゲームかも知れませんね。ヨーロッパの人から見ると、ホント何やってるかわかんないそうだし。」
典夫「悔しい思いをするなら、はじめからやらなければいいのに。」
広一「勝ったら嬉しいからでしょ。」
典夫「勝ったら嬉しい? 自分さえ勝てれば相手はどうなってもいいのか?」
広一「負けたら、頑張って次勝てばいいのでは?」
典夫「そんなことをしていたら、どんどんエスカレートして最後には戦争だ。」
広一「戦争? 極端ですよ、それは。正直、僕も勝負ごとは好きじゃないんですけどね。でも、観るのは好きかな。オリンピックとか。」
思わず少年は端末を操作する。
広一「それ、見慣れないスマホだね」
典夫「モノリスだ」
広一「聞いたことないな?どこで買ったの?そんなの。秋葉原?」
典夫「発売はされていない。生まれた時に与えられるものだ」
広一「えっ? 君、どこから来たの?」
典夫「すまない、インストール中なので言葉が不自由だ」
広一「ああ、それで君は・・・」
典夫「孫です」
広一「これからおじいさんと暮らすのかい」
典夫「・・・そうだよ。ところで君は幾つになるの?」
広一「僕ですか?僕は17歳です。」
典夫「僕も17歳です。」
広一「えっ?じゃあタメじゃん!」
典夫「言葉が急に敬語でなくなったね?」
広一「なんだ、そうだったのか…で、学校はどこ行くの?」
典夫「学校? 学校があるのか?」
広一「えっ? ああ。えっ? まだ決まってないの?俺は、東西山高校ってところに通ってて、家からは結構近い。」
典夫「東西山高校。そこには女子も通えるのか?」
広一「もちろん。共学だから。どうして? えっ? まさかキミ、女の子?」
典夫「僕に男も女もないが。」
広一「えっ?」
典夫「姫が行きたがるかもしれないかと思って。姫は学校に行ったことがないから。」
広一「姫?」
典夫「教えてくれてありがとう。僕もそこに行くことにするよ。」
広一「行くって言っても簡単には行けないだろう。試験を受けないとな。俺達も受験して入ったから。転校生も受験が必要だと思うよ。正規で受験するのと、転校生として受験するのどっちが難しいんだろうなあ。俺達の学校は、競争率が2.7倍だったから…。でも、そこ一緒じゃないと不公平だよね。」
典夫「東西山高校は、年に2回転校生向けの受験を行っているようだね。本年度の受付はもう終了しているのか。」
典夫「あっ、インストールが完了する。」
その時、インストールは終了した。
典夫「あ…した。ごめん。なんか僕、変なこと口走ってなかったかい?」
広一「え…ああ…まあ…。」
典夫「ごめん。全部忘れて。」
広一「全部って、何をどこまで?」
典夫「まあいいや。山沢典夫です。岩田広一君だね? はじめまして。これからもよろしく。」
広一「ああ…よろしく。」
変な奴だと思ってたら急にまともになったな。そこがやはり変か。広一はのんびりと考えるのだった。
しかし、帰宅した典夫は本性を現す。とてもこの世界の携帯端末とは思えないモノリスを操作すると、酒を飲んでいる江原老人の思考を調整するのだった。
典夫「くそっ。酒を飲んでいるから、思うようにコントロールが出来ない。モノリスのボルテージをあげるしかない」
江原老人は、認知症患者ではなくなった。
江原「山沢典夫様、なんでもお申し付けください」
江原老人は、忠実な下僕となったのだった。
典夫「君への最初の命令だ。この高校の理事長である寺岡の家に行って欲しい。」
そして江原老人を東西山高校の寺岡理事長(斉木しげる)の家に派遣する典夫。
寺岡妻「ハイ、どちらさまでしょうか?」
江原「山沢と言えば分かると思います。」
寺岡「山沢先生ですか、どのくらい前にお会いしましたかね?」
その時、江原老人はモノリスを空中に放り出して寺岡理事長をコントロールし始めた。
理事長も、たちまちモノリスによって洗脳されてしまった。
典夫の潜入工作が開始されたのである。任務を終えて帰還する江原老人。典夫は部屋から命ずる。
典夫「満天の星空だ。」
江原「満天の星空だ。」
典夫「なんて美しいんだ。この世界は。」
江原「なーんて美しいんだ。この世界は。ハハハハ。ハーハハハハハ。ハハハハハ。」
夜の野原を笑いながら走るロボットのような爺が一人。踊るように闇に消える。恐るべき侵略が始まろうとしていた。
原作も40年前に放送されたNHK版なぞの転校生の映像も微かな記憶として残っているが、原作には無かったモノリスを携帯風にして今風にアレンジしたのが特に面白かった。また役者は大変だろうが、よく石膏のようなモノを付けられたまま演じることが出来ると思う。最初のオープニング映像から間もないうちに撮影されたとは思うが、すぐ風呂に入った設定となっている。オープニング映像を撮ったのも、ロケ地となった栃木県の佐野市街にあるに違いない。
【用語解説】
モノリス・・・謎の携帯端末。一見スマホのような姿をしているが、宙に浮かび空間に様々な色の光を放ち、多彩な機能を発揮する。山沢典夫によれば未知なる物質マルスを進化させたものであり、スズシロはD-8世界を滅ぼした一因としてモノリスの存在を示唆する。
第二話終わり