皇居は現在は大都市である東京都の中心部にあるが、多足類、クモ類などの状況から考えると、16世紀末の徳川家康の入城以前は海に面した照葉樹林帯であったと考えられる。江戸幕府の成立後、江戸城の建設が本格化し、現在の吹上御苑も御三家の邸宅など宅地化され、その後も庭園、馬場、そして昭和になってからはゴルフ場と様々な利用のされ方をすることになった。
そのような中、武蔵野の自然を蘇らせる希望を持った昭和天皇の意向で、昭和12年(1937年)以降吹上御苑の公園的な管理は中止され、更には昭和23年(1948年)以降、武蔵野に自生する植物の移植が進められていった。その結果、最低限の管理が行われていることと成立の経緯から原生林とは言えないものの、現在の吹上御苑は豊かな森林に覆われるようになり、大都市の中心部としては異例の豊かな自然が見られるようになった。また吹上御苑内には田畑、桑畑などがあって里山的な環境もあり、小さいながらも流水域と湿地帯も見られるなど、極めて多様な環境に恵まれており、大都市の中心部にあるために都市に適応した種も見られる点を含めて、極めて多様な生物相に恵まれることとなった。また皇居は関東平野本来の自然環境を現在見ることが出来る場所であると考えることも出来る。
吹上御苑の湿度は、近くの気象庁の測定値に比べ、およそ10~20%程高く、衛星の観測データによれば、吹上御苑を含む皇居の森で作られた高湿度の空気が大気を冷やし、銀座、日本橋辺りまで流れ込み、ヒートアイランド現象の抑制にも役立っていることが判明している。