天皇家の食生活は、医食同源として食で健康を目指す“食養学”に基づいている。両陛下の食事を実際に作るのは、宮内庁大膳課の職員。大膳課は5つの係に分かれ、第1係は和食、第2係は洋食、第3係は和菓子、第4係はパンと洋菓子、第5係が東宮御所担当となっており約50人が勤務している。
メニューは主厨長と副厨長が2週間分を考える。朝は毎日、トーストやオートミールなど軽めの洋食で、昼食と夕食は和食と洋食が交互に出される。
昭和天皇時代に約5年にわたって宮内庁大膳課に勤め、現在は東京・江古田で『ビストロ サンジャック』を開いている工藤極氏はこう語る。
「大膳課の職員は陛下のことを“聖上”とお呼びしていました。私が大膳課に入って、まず言われたのが“聖上には糖分・脂分は控えるように”ということでした。素材が本来持っている淡い味を引き出すような調理を心がけました。それととにかく食材を使い切れということを口酸っぱく言われました」
侍医から“1日1800kcal”という指示があり、市販の化学調味料は一切使わず、塩分も1日10g以内だったという。そして調理の基本とされたのが「一物全体食」という食材を余すことなく使い切るという考えだったという。
「それが栄養のバランスが偏らないようにする大膳課に伝わる伝統なんです。例えば、野菜の皮は、後でスープの具にしたり、葉物なら後日漬け物にします。鶏肉も、胸肉、もも肉は主菜に使い、手羽は後日、スープの具に。骨はスープのだしを取るのに使い、ぼんじりは軽く揚げてつけ合わせにするといったようにです」(前出・工藤氏)
材料は厳選されたものを使うのだが、新鮮な肉、野菜、乳製品といった食材のほとんどが栃木県高根沢町にある御料牧場で生産されている。広さは約252ヘクタール(東京ドーム約54個分)と広大な敷地ながら、“天皇家の台所”である場所だけに周囲の至るところには“関係者以外立ち入り禁止”の看板が設置される徹底ぶり。それだけ安全・安心な食材を細心の注意を払って天皇家の食卓に届けている。