■観測場所の天候
この皆既日食帯は、2016年3月9日に西大平洋を通過します。皆既帯の最初は熱帯収束帯が居座るインドネシアの島々を通過するので、この地域では雲間からの観測となるでしょう。Jay Anderson氏より抜粋した資料によると、赤道をまたいで熱帯収束帯が居座るインドネシアの島々では雲量が多くてあまり観測に向かないことが分かります。晴天率を求めるなら、ミクロネシア連邦の島々が最適です。皆既帯付近で一番晴れやすい地域は米領ウェーク島ですが、99%の部分日食となってしまいます。一番無難なのは、グアム島から船舶をチャーターしてマリアナ海溝付近の皆既帯に行くしかありません。ミクロネシア連邦に属するヤップ州の島々には僅かながら皆既帯が掛かる環礁があります。ここでは、皆既帯が通過する島と環礁について天候の概略と共に説明します。
■スラウェシ島の地理
スラウェシ島は、インドネシア中部にある島。植民地時代はセレベス島と呼ばれたが、インドネシア独立後はスラウェシ島と呼ばれます。一部が赤みがかったタロイモの品種であるセレベス芋は、この島が原産です。
スラウェシ島の面積は17万4600km²で、世界第11位、インドネシアでは第4位の大きさ。西にカリマンタン島、東にマルク(モルッカ)諸島、北にセレベス海を挟んでミンダナオ島、そして南にフロレス海を挟んで小スンダ列島(ヌサ・トゥンガラ諸島)があります。環太平洋造山帯とアルプス・ヒマラヤ造山帯の合流点にあるため地形は複雑で、アルファベットのKの字のような形状をしています。
全体的に山がちな地形で、標高3,455mのランテコムボラ山を有し、トウティ湖もあります。そのため各地域は交流が少なく独自性が強くなり、長らく島としての一体性が弱いです。島の東側の3つの湾(トミニ湾、トロ湾、ボネ湾)のうち、一番北のトミニ湾に浮かぶウナウナ島のコロ山は
1983年に大噴火がありましたが、全島避難により間一髪で人的被害を免れました。スラウェシ島の最大の都市は、南西端にあるマカッサル。その他の主要都市として南東部にケンダリ、北部のミナハサ半島にはゴロンタロやマナドがあります。
■皆既中心線が通過する都市の渡航情報 (Palu,Poso,Luwuk)
スラウェシ島の皆既帯は、中部スラウェシ州に沿っています。この州はスラウェシ島の中央部にあり、州都はパル。ポソ県のポソ市とバンガイ県のルワク市も皆既帯にあります。このうちポソ県とポソ湖は外務省からの通達で、2015年3月6日より中部スラウェシ州ポソ県の渡航情報を「渡航の是非を検討してください」に引き上げました。
ポソ県郊外にはイスラム過激派(東インドネシアのムジャヒディン:MIT)が潜伏していると見られ、警察官や住民への襲撃が度々発生しています。MITがISILへの支持を表明していることから、外務省は日本人を含む外国人を標的とする可能性もあると説明。インドネシア国家警察も2015年1月以降、本部機動隊を増派し、検挙活動を強化しています。
パルの人口は、約33.5万人ほど。赤道に近い南緯1度に位置するので非常に暑いです。パル湾の奥50kmに位置し、2000m級の山に囲まれた海あり山ありの風光明媚な街です。スラウェシ島の南部に位置し、南スラウェシ州の州都マカッサル(旧名ウジュン・パンダン)から飛行機で約1時間の距離にパル市があります。気候はマカッサルと異なり乾期は6月と7月の2ヶ月間だけで、大体毎日午後になると雨が降る山岳気候です。パルにはマカッサルの他に北スラウェシ州のマナド、ボルネオ島東岸にある東カリマンタン州に属する港湾都市バリクパパンからも飛行機が乗り入れています。
パルから中央スラウェシ州の東部の町ルワクには、メルパチ・ヌサンタラ航空が小型機を週3回程度運行しています。中部スラウェシ州では、ルワクの方が皆既継続時間が長くなります。
パルには行政各機関と大学、木材産業、カカオの出荷以外にあまり大きな産業はありません。経済的には同じ島内のマカッサルやマナドとのつながりよりもマカッサル海峡のカリマンタン側の対岸バリクパパンやジャワ島のスラバヤとの関係が深いです。海上交通の実態を調べるとスラウェシ島が一つの経済圏を構成しているのではなく、島の西側はカリマンタン島と、北スラウェシではマルク諸島やフィリピン方面と、スラウェシの南部では南のフローレス諸島とのつながりが大きいです。これはスラウェシ島の大半が急峻な山岳地形で陸上交通インフラが貧弱なため、実質的には各地域が近隣諸島との海上交易を中心にした個別の経済圏を構成しています。ポソでは暴動が長期的に続いていて、中部スラウェシ州は観光旅行延期勧告が出されています。
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