Quantcast
Channel: スチャラカでスーダラな日々
Viewing all 7530 articles
Browse latest View live

母乳栄養

$
0
0

アザラシの赤ちゃん

国際母乳シンボル母乳栄養の利点は身体、精神両面にわたり、母子両者に及ぶ。子供は母体からの栄養素と抗体が得られる。授乳はまた心理的に母子の絆を強める。また、母乳栄養を行うと正常な腸内細菌叢(フローラ)が早期に形成され、下痢の防止と免疫機能に役立つ。

母乳栄養は母親にとっても利点がある。授乳の際分泌されるホルモンには気分を落ち着かせる効果があり、育児に前向きな気分を感じさせる。出産のできるだけ直後から母乳栄養を行うと、分泌されるオキシトシンが増加するため子宮復古を促進し、出血を抑える。母乳を生成するのに脂肪が消費されるため、ダイエット効果もある。頻繁に授乳している間は、排卵や月経の再開が遅れて妊娠しにくい。そのため母親の貯蔵鉄を回復し、子どもが授かる間隔が自然になる。母乳栄養を行った母親は、出産後骨の再石灰化が進むことも知られている。閉経前後を問わず、卵巣腫瘍や乳癌のリスクが減少することも知られている。

愛らしいアザラシの声

授乳は自然な行為に見えるが、上手に授乳するにはそれなりのテクニックが必要である。授乳がうまくいかない主な理由は赤ん坊の抱き方で、抱き方が悪いと乳首や乳房をいためやすい。赤ん坊の頬を軽く押して乳首を口につけると、赤ん坊は唇を開き乳首の側を向く。そこで乳首と乳輪が赤ん坊の口一杯になるくらいに含ませる。そうすると乳首は赤ん坊の咽の奥に当たるはずである。この体勢をつくることをlatching onという。陥没乳頭、扁平乳頭の場合はマッサージによって赤ん坊がしゃぶりつけるだけの余地をつくりだせる。普通のブラジャーより乳首を出しやすい「授乳用ブラ」を使う女性が多い。

数分たつと、あるいは十分長く飲んだ後、赤ん坊は乳首を離そうとする。そのまま同じ乳房から飲み続けることもあるし、もう一方の乳房を与えてもよい。乳腺が空になっていくにつれ、脂質含有量が増える。時間制限を行ったり、すぐ次の乳房に移らせたりしないで、飲み始めた乳房が空になるまで飲ませてよい。

授乳時間はさまざまである。その長短にかかわらず、授乳している女性が快適な状態にあることは重要である。

夕方部分月食

$
0
0

2014年4月15日皆既月食
2014年4月15日皆既月食:NASAから抜粋

本日の夕方は日本で部分月食が見られるのですが、条件は非常に悪く部分月食が終わるころに月の高度が3度にしかならないので東の地平線が開けた場所でしか見ることが出来ません。この月食は西に行くほど条件が悪くなり、福岡あたりですと部分月食すら見られません。18:30頃には部分月食が終わってしまうので、観測できる方は早めに仕事を終えて地平線から昇ってくる月を眺めましょう。

都会の月の出

Sade Adu

$
0
0

Sade - Love Is Stonger Than Pride

Sade Aduヘレン・フォラシャーデー・アデュ(Helen Folasade Adu、1959年1月16日 - )はナイジェリア・イバダン生まれのシンガーソングライター。イギリスのバンド、シャーデーのヴォーカリスト。そのスモーキーな歌声と、無駄な音をそぎ落とした楽曲作りで名高い。

ナイジェリアの有力部族ヨルバ族出身の父は、ロンドン留学中に看護婦のイギリス人女性と出会い結婚。その後夫妻はナイジェリアへ移住し、1男1女をもうけた。その長女がヘレンである。ミドルネームのフォラシャーデーとは、「王冠を授かる栄誉」を意味する。ヘレンが4歳の時、両親が離婚。ヘレンは兄バンジとともに母に連れられてイギリスへ帰国。母はほどなくイギリス人男性と再婚する。少女時代のヘレンはカーティス・メイフィールドやマーヴィン・ゲイを好んで聞いていた。

1977年、セントラル・セント・マーチンズ・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインへ入学し服飾デザインを学ぶ。卒業後、友人と共にメンズラインのみの小さなファッション会社を立ち上げた。その片手間に、写真のモデルをしていた。

本業とは別に、Arrivaというラテン・ソウル・バンドに参加。その後参加したレイ・セントジョンのバンドを通じて、ステュアート・マシューマン、アンドリュー・ヘイル、ポール・デンマンと出会い、1983年にバンド、シャーデーを結成。1995年、ジャマイカ人音楽プロデューサー、ボブ・モーガンとともにジャマイカへ移住。1996年に長女をもうけた。

Sade - No Ordinary Love

Sade

$
0
0

Sade - Kiss of Life

Sade in Boston, July 2011シャーデー(Sade)は、イギリスのバンド。女性ソロ歌手だと誤解されることもあるが、女性ボーカルとバックミュージシャンから成るバンドの名称である。

1984年デビュー。第2次ブリティッシュ・インヴェイジョンを背景にして、アルバム『Diamond Life』が英国のみならず米国などでもヒット。翌年の米グラミー賞最優秀新人賞に輝いた。ジャズとアダルト・コンテンポラリーをミックスしたサウンドや、アデュの落ち着いたミステリアスなボーカルが特徴。寡作ながら、発表する作品はいずれもが世界的なヒットとなっている。1994年から、アデュを除くメンバー3人がSweetbackという名前で活動を始めた。

2000年のアルバム『Lovers Rock』で再びグラミー賞の最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞を受賞。

2010年2月に約9年ぶりとなるオリジナルアルバム『Soldier Of Love』を発売(日本国内盤は3月)。2009年12月に同名の先行シングルを公開した。

当初のジャズやソウルの系統のサウンドから、『Lovers Rock』以降はブルースやフォークの影響を感じさせるギター中心のサウンドに変化している。またアデュがジャマイカに移住したこともあり、レゲエの影響も受けている。

Sade Adu - PARADISE

Sade Live

$
0
0
Sade - Cherish The Day (live)

Sade - The Moon And The Sky | Best Smooth Jazz For Chill Out

なぞの転校生 op ed

$
0
0

なぞの転校生・オープニング

なぞの転校生なぞの転校生テレビ東京『ドラマ24』版は、2014年1月11日から3月29日まで毎週土曜日0:12 - 0:52(JST、金曜日深夜)にテレビ東京系の「ドラマ24」枠で放送されていたテレビドラマ。中村蒼、本郷奏多、桜井美南のトリプル主演。企画プロデュース・脚本 - 岩井俊二、監督 - 長澤雅彦。

オープニングテーマ - 桜井美南「今かわるとき」
エンディングテーマ - 清水翔太「DREAM」
劇中歌 - ヘクとパスカル「風が吹いてる」
劇中曲 - フレデリック・ショパン「雨だれ Prelude Opus 28 Nr.15」、
      モーリス・ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」

なぞの転校生・エンディング

桜井美南既に正月のブログでなぞの転校生について書いたのですが、全編を見て改めて透明感のある良質なドラマだな…と思いました。若い人は眉村卓について知らない方も多いと思いますが、アラフィフのおっさんにとっては眉村卓のジュブナイルSF小説と言ってNHKでよく放送されていたのを思い出します。

それが脚本 岩井俊二、監督 長澤雅彦によって現代風に仕上げられてとてもピュアで興味をそそるような話になりました。第一話から欠かさず見ていました。ただ3分のCMが多すぎて0:15から録画をしていましたが…

オープニングテーマも衝撃的な作りで好きですが、個人的にはエンディングテーマが大好きです。時折涙腺を刺激するような感動的な作りです。普段ドラマは大嫌いで一切見ませんが、眉村卓作品に外れはないので2001年に放送された幻のペンフレンドと共に大好きなSFドラマです。

一度映画化されたそうですが、キーマンとなるなぞの転校生役は原作通り山沢典夫にして欲しかったです。
なぞの転校生が別の女性キャラクターで映画化された作品は、一切見ませんでした。

なぞの転校生 #01

$
0
0

なぞの転校生 #01

この世界にはショパンがいない…これがこのドラマの始まりとなる。これが何を意図しているのか、放送当時はまるで分からなかったのだが…

東西山高校2年3組に通う岩田広一と香川みどりは幼馴染。

帰り道が一緒の二人は、夕暮れの空に「上昇する流星」を目撃する。

流れ星みどり「あっ…流れ星!」

広一「何をお願いしたんだよ」

みどり「秘密・・・」

広一は「UFOじゃないか」と疑問を呈するのだが、みどりは「生まれて初めて流れ星を見て願い事したんだから流れ星に決まっている」と決めつけるのだった。

その現象は、ニュース(狩野恵里アナ)にも取り上げられるほど広範囲で目撃されたらしい。

もやもやとした気分で帰宅した広一は・・・隣室の住人・江原正三(ミッキーカーチス)が認知症を発症している場面に遭遇する。正三は妻にも愛犬・サスケにも先立たれた独居老人である。

江原「家にたくさん人がいるんだよ・・・」

老人の奇妙な言動に室内を検める広一。しかし誰もいないのだった。

広一「これか。レビー小体型の認知症って、ホントに幽霊を見るんだね。怖ぇ。」

広一の家では、広一の父親の亨(高野浩幸)はサイエンス・ライターである。広一は父親にも「UFO説」を否定される。そして母親の君子(濱田マリ)にも「いつまでたってもムーくんなんだから」と茶化されるのだった。恐らく広一は、オカルト雑誌「ムー(MU)」の愛読者なのだろう。このことはクラスでも周知の事実である。

亨「いやいや、隕石が上方向に飛ぶってのは必ずしもあり得ないことじゃないよ。例えば、隕石の軌道が浅く、一度は地球の重力に引き寄せられつつも、落下せず、また地球から離れていったとするならば、隕石は上方向に飛んでったように見えるだろう。」

広一「いいや、あれはきっとUFOだね。」

亨「UFOなんか存在しないよ。仮に宇宙人がいたとしても、この地球にやってくるのに何万光年もかかる。」

広一「超ひも理論は? あれは、宇宙に無数の裂け目があるって話だよ。その裂け目から裂け目へUFOが時空を超えてたら?」

亨「ハハッ。SFだな。時空間を超えられたとしたって、そこにはおそらく莫大な重力場がある。地球を粉々にするほどのな。そこを旅行するなんて不可能だよ。なぁ、広一。お前さ、父さんがサイエンスライターなのに、UFOとか幽霊とか、発想が『ムー』なんだよ。」

広一「『ムー』って言うな。」

君子「出たわね、『ムー』。」

亨「お前ホント好きだよな。トンデモ系雑誌。」


「なぞの転校生」といえば大谷先生である。今回の設定は音楽教師であり、グスターヴ・ホルストの組曲『惑星』から「金星、平和をもたらす者」を生徒たちに聞かせる。

極めて控えめなサービスとして、香川みどりたちの体操着から制服への生着替えがあり、それを跳び箱の中から盗撮した大森健次郎(宮里駿)は香川に発見され、口封じの代わりに奴隷となるのだった。

しかし、体育倉庫で「上昇する流星」に続く怪奇現象「奇妙な発光」が発生する。

みどりは、奇妙な出来事の連続に何かの兆しを感じた。

その夜、広一とみどりは春日愛と変態大森とともに校舎に侵入する。

広一はデート気分で浮かれるのだった。夜の校舎に好きな女の子と二人きり。夢のようなシチュエーションである。

四人を発見、追跡した警備員はプラズマ状の謎の電光に襲撃されるのだった。世界に何かが起ろうとしていた。

そして江原正三の部屋には、全身を白い泥土に覆われた奇妙な少年(本郷奏多)が出現していた。

…正直、第一話の見どころは全身を白い泥土に覆われた奇妙な少年(本郷奏多)が出現した場面くらい。後半では話の流れが詰まっただけに、第一話は省略しても良さそうな感じだった。ただ最終話を見ると、第一話で見られた逆向きの流れ星が妙に説得力のある構図となっている。

1975年にNHKで放送されていた「なぞの転校生」は原作に忠実なシナリオで大阪から引っ越してきた設定が武蔵野から引っ越した設定になっていたが、TV東京版の「なぞの転校生」はシナリオが全く違っていて登場人物も多い。違う設定のシナリオだが、現代風に昇華した見せ場が多く近年では素晴らしく出来のいいSFドラマとなった。NHK版より3話も多いためか、長い挿入歌が入ったりして多少間延びした場面も多い。

第一話終わり

なぞの転校生 #02

$
0
0
なぞの転校生 #02

石膏江原正三(ミッキーカーチス)は、見知らぬ闖入者に驚く。

江原「わぁ、また何か現れた。誰だ!お前…」

典夫「・・・」

しかし、ひび割れた石膏で固められたような少年は答えない。

認知症の江原老人は、喘ぐように移動して隣人に危機感を伝えようとする。

ピンポンピンポンピンポン・・・

江原「知らない誰かがいる」

君子「はあ・・・」

しかし危機というものを知らない主婦である岩田君子(濱田マリ)の反応は鈍い。

江原「若い奴なんです」

君子「お孫さんじゃないんですか」

江原「孫…あんな孫はいなかったと思うけれど」

江原老人は自信を失う。孫を忘却してしまっただけかもしれない。失われて行く記憶の海で溺れかけている認知症患者の不安と孤独と焦燥。所詮他人事である。江原老人を追い払った君子は家族に朝の話題を提供する。

君子「隣のおじいちゃんにも困ったものねえ」

亨 「おい広一、そういう施設のこと調べたか?」

面倒なことを誰かに押し付けたい亭主の岩田亨(高野浩幸)は息子に矛先を向けるのだった。

日曜日だからのんびりしたいのである。

「ええっ」と広一(中村蒼)は中途半端な態度で応じるのだった。父親がのんびりしたい気持ちも分かるが、自分ものんびりしたいのである。なんてったって日曜日なのだ。

そこへ世が世なら盗撮犯として警察に厄介をかけているかもしれないクラスメートの大森健次郎(宮里駿)から「草野球の誘い」の連絡が入る。

痴呆化した老人の世話と友人との付き合いを天秤にかけた広一は、後者を選択するのだった。

老人の部屋で入浴し、老人の衣装で身だしなみを整えたなぞの少年は目を不気味にチカチカと発光点滅させながら部屋を出る。そして広一と遭遇するのだった。

広一「君は・・・」

典夫「起動して間もないので、2時間ぐらいで全てのファイルのインストールが終わります。その間はあまり、動いてはいけないことになっています。動作が不完全になりますし、喋ってはいけない話をうっかり喋ったりしてしまうこともあったり…する事もあります。ホントは数時間の安静が必要なんですが、僕にはあまり時間がないのです。」

広一「え・・・」

典夫「そういうことなのさ」

広一「どういうことなんだ?」

どこか狂気を感じさせる少年の態度に穏やかに応じる広一。

典夫「つまり、時間が足りないのだ」

広一「忙しいってこと。お隣の人ですか?」

典夫「・・・孫です」

広一「ああ、そうなんだ」

納得して通り過ぎようとする広一。

典夫「君・・・」

遠くを見ながら語る謎の少年。

広一「僕・・・」

典夫「そうさ君に話しかけている」

広一「そうなんだ・・・」

典夫「君は何者だ」

広一「いや、となりの者ですけど」

典夫「隣・・・」

広一「うん」

典夫「・・・」

突然、歩きだす謎の少年。マンションを出た少年と広一の向かう方向は同じだった。

広一「なぜ、ついてくる?」

典夫「いや、向こうに用があるんだ・・・」

広一「じゃ、お先にどうぞ」

妙な奴だと思うものの、広一は大森の待つ野球場に向かうのだった。

謎の少年は相変わらず、尋常ではない光を目から発しながら街を眺める。

そして運命に導かれ広一の幼馴染である香川みどり(桜井美南)の花屋に向かうのだった。

花みどり「いらっしゃいませ」

典夫「素晴らしい・・・」

みどり「・・・」

典夫「初めて見ました。」

みどり「えっ? どれを?」

典夫「花をです。」

みどり「花を?」

典夫「本物の花は初めてです。綺麗ですねえ。」

みどり「ガーベラなら、いろいろな色がそろってます」

典夫「色・・・」

みどり「適当に選んで花束をお作りしますか?」

典夫「花束か、良いですね」

みどり「他には何か、お好きな花がありますか?」

典夫「好きな花・・・」

みどり「月並みですけど、薔薇とか」

典夫「薔薇、美しい花ですね」

みどり「どうでしょう」

典夫「とても綺麗だ」

みどり「1500円になります」

モノリオ花屋典夫「おカネは持っていません。なので、お花は結構です」

みどり「・・・これ一つどうぞ。差し上げます。」

みどりは、白い花を一輪差し出した。

典夫「ありがとう。」

みどり「これでいいですか?」

典夫「はい。ありがとうございます。(よろけて) 失礼。」
   「まだちょっとインストール中で、バランスがうまくコントロールできない。」

具合が悪いの?とか聞かないみどりだった。なぜなら、既に少年の美しさにうっとりしている。

典夫「さようなら。」

微笑んで少女の贈り物を素直に受け取る少年。仄かな恋の始りである。

思わず花に見入る少年。見知らぬ少年の横顔に、思わず見入るみどりだった。

みどり「何? あの人…。変な人。」

密かに好意を寄せている幼馴染のみどりが一足早く大人の階段に足を踏みかけているのに、のほほんと草野球に参加する広一だった。なぜかクラスメートの春日愛(宇野愛海)も参加しているのだった。

広一「なんで愛がいるのさ?」

しかし広一が入ってもまだ一人足りない大森チーム。そこへ花を持った少年がグラウンドにやってくる。

一同「おい!?君?」

典夫「僕・・・」

広一「野球をやらないか」

典夫「野球・・・」

その時、少年は見慣れぬ機種のスマートホンを操作する。

典夫「野球か・・・」

広一「やったことあるだろう」

典夫「やったことはないが、ルールは知っている」

少年は花を広一に渡し、逆にバットを持って打席に入る。

相手チームにとっては、待ちかねたプレーボールである。

そして、初球をとらえてホームランを放つ少年だった。唖然とする一同。しかし、少年は動かない。

広一「おい、ホームランだよ」

典夫「ホームラン」

広一「ダイヤモンドを一周するんだ」

典夫「宝石を・・・」

広一「本当に知らないのか?ヨーロッパ人かよ」

典夫「・・・」

少年の手をとって一塁に向かう広一。その光景に「なんて絵面だ」と叫ぶ愛だった。

試合は大森チームの勝利で終わった。帰る方角が一緒の典夫と広一は・・・

典夫「野球というものは難しい。喜んでいる者も、悔しがっている者もいた。一体何がしたいゲームなんだ?」

広一「初めてやる人からしたら、難しいゲームかも知れませんね。ヨーロッパの人から見ると、ホント何やってるかわかんないそうだし。」

典夫「悔しい思いをするなら、はじめからやらなければいいのに。」

広一「勝ったら嬉しいからでしょ。」

典夫「勝ったら嬉しい? 自分さえ勝てれば相手はどうなってもいいのか?」

広一「負けたら、頑張って次勝てばいいのでは?」

典夫「そんなことをしていたら、どんどんエスカレートして最後には戦争だ。」

広一「戦争? 極端ですよ、それは。正直、僕も勝負ごとは好きじゃないんですけどね。でも、観るのは好きかな。オリンピックとか。」

思わず少年は端末を操作する。

広一「それ、見慣れないスマホだね」

典夫「モノリスだ」

広一「聞いたことないな?どこで買ったの?そんなの。秋葉原?」

典夫「発売はされていない。生まれた時に与えられるものだ」

広一「えっ? 君、どこから来たの?」

典夫「すまない、インストール中なので言葉が不自由だ」

広一「ああ、それで君は・・・」

典夫「孫です」

広一「これからおじいさんと暮らすのかい」

典夫「・・・そうだよ。ところで君は幾つになるの?」

広一「僕ですか?僕は17歳です。」

典夫「僕も17歳です。」

広一「えっ?じゃあタメじゃん!」

典夫「言葉が急に敬語でなくなったね?」

広一「なんだ、そうだったのか…で、学校はどこ行くの?」

典夫「学校? 学校があるのか?」

広一「えっ? ああ。えっ? まだ決まってないの?俺は、東西山高校ってところに通ってて、家からは結構近い。」

典夫「東西山高校。そこには女子も通えるのか?」

広一「もちろん。共学だから。どうして? えっ? まさかキミ、女の子?」

典夫「僕に男も女もないが。」

広一「えっ?」

典夫「姫が行きたがるかもしれないかと思って。姫は学校に行ったことがないから。」

広一「姫?」

典夫「教えてくれてありがとう。僕もそこに行くことにするよ。」

広一「行くって言っても簡単には行けないだろう。試験を受けないとな。俺達も受験して入ったから。転校生も受験が必要だと思うよ。正規で受験するのと、転校生として受験するのどっちが難しいんだろうなあ。俺達の学校は、競争率が2.7倍だったから…。でも、そこ一緒じゃないと不公平だよね。」

典夫「東西山高校は、年に2回転校生向けの受験を行っているようだね。本年度の受付はもう終了しているのか。」

点滅典夫「あっ、インストールが完了する。」

その時、インストールは終了した。

典夫「あ…した。ごめん。なんか僕、変なこと口走ってなかったかい?」

広一「え…ああ…まあ…。」

典夫「ごめん。全部忘れて。」

広一「全部って、何をどこまで?」

典夫「まあいいや。山沢典夫です。岩田広一君だね? はじめまして。これからもよろしく。」

広一「ああ…よろしく。」

変な奴だと思ってたら急にまともになったな。そこがやはり変か。広一はのんびりと考えるのだった。

しかし、帰宅した典夫は本性を現す。とてもこの世界の携帯端末とは思えないモノリスを操作すると、酒を飲んでいる江原老人の思考を調整するのだった。

典夫「くそっ。酒を飲んでいるから、思うようにコントロールが出来ない。モノリスのボルテージをあげるしかない」
山沢典夫
江原老人は、認知症患者ではなくなった。

江原「山沢典夫様、なんでもお申し付けください」

江原老人は、忠実な下僕となったのだった。

典夫「君への最初の命令だ。この高校の理事長である寺岡の家に行って欲しい。」

そして江原老人を東西山高校の寺岡理事長(斉木しげる)の家に派遣する典夫。

寺岡妻「ハイ、どちらさまでしょうか?」

江原「山沢と言えば分かると思います。」

寺岡「山沢先生ですか、どのくらい前にお会いしましたかね?」

その時、江原老人はモノリスを空中に放り出して寺岡理事長をコントロールし始めた。

理事長も、たちまちモノリスによって洗脳されてしまった。

典夫の潜入工作が開始されたのである。任務を終えて帰還する江原老人。典夫は部屋から命ずる。

この世界典夫「満天の星空だ。」

江原「満天の星空だ。」

典夫「なんて美しいんだ。この世界は。」

江原「なーんて美しいんだ。この世界は。ハハハハ。ハーハハハハハ。ハハハハハ。」

夜の野原を笑いながら走るロボットのような爺が一人。踊るように闇に消える。恐るべき侵略が始まろうとしていた。

原作も40年前に放送されたNHK版なぞの転校生の映像も微かな記憶として残っているが、原作には無かったモノリスを携帯風にして今風にアレンジしたのが特に面白かった。また役者は大変だろうが、よく石膏のようなモノを付けられたまま演じることが出来ると思う。最初のオープニング映像から間もないうちに撮影されたとは思うが、すぐ風呂に入った設定となっている。オープニング映像を撮ったのも、ロケ地となった栃木県の佐野市街にあるに違いない。

【用語解説】
モノリス・・・謎の携帯端末。一見スマホのような姿をしているが、宙に浮かび空間に様々な色の光を放ち、多彩な機能を発揮する。山沢典夫によれば未知なる物質マルスを進化させたものであり、スズシロはD-8世界を滅ぼした一因としてモノリスの存在を示唆する。

第二話終わり

なぞの転校生 #03

$
0
0

なぞの転校生 #03

滅びかけた人生を生きる江原正三(ミッキー・カーチス)は恍惚の朝を迎える。

江原「あああ…だれ?知らないあんた」

典夫は、モノリスを作動させる。

活性化および増幅修正により精神機能のボルテージが一時的に上昇し、恍惚の人から典夫の忠実な下僕となる。

江原「失礼しました・・・」

典夫「大丈夫か」

江原「昨夜はいささか、はしゃぎすぎました」

典夫「すまない。お前の命は尽きかけている」

江原「お気になさりますな、涅槃には亡き妻が待っております」

典夫「・・・そうか」

モノリスには持続的な効果はないようだ。効果範囲も限定されているしい。典夫は学校に向かった。

理事長の寺岡(斉木しげる)に呼び出された大谷先生(京野ことみ)は典夫の転入に驚く。

しかし何事にも前向きな大谷先生は、なぞの転校生をただちに受け入れた。

登校中の幼馴染同志である岩田広一(中村蒼)と香川みどり(桜井美南)は、クラスメートの大森健次郎(宮里駿)と春日愛(宇野愛海)がカップルになっていることを発見する。

みどり「二人、付き合ってるみたいね」

広一「そういえば、昨日も一緒だったな」

みどり「向こうも私たちを見て同じようなこと言ってるかもよ」

広一「え・・・」

みどり「私たちはどうなのかしらね」

広一「え?なんだよそれ」

みどり「・・・」

精神的に幼い。体は高校生だが心は中学生の広一は戸惑う。

一足早く大人になりかけているみどりは、そんな広一にものたりなさを感じるのだった。

その気持ちは、教室に転校生の典夫が入って来た時に一気に加速するのだった。

みどりは、既になぞの転校生に心を奪われていた。

その変化に鈍いはずの広一も即座に反応する。しかしその気持ちをもてあます広一。

大谷「ハイ、今日は新しく入った転校生を紹介します。山沢くん入って。」

典夫「初めまして、山沢典夫と申します。この世界のことを色々と教えて下さい」

山沢くん広一(世界か・・・やはりとても変わった人だ)

みどりは、心に新鮮な空気が入り込むのを感じる。

みどり(花を心から愛している人)

みどりには、奇妙な典夫の言動が美しい調べとなって感じられる。

一方で、広一は理由のない胸騒ぎを感じるのだった。

広一(何か、おかしなことがおこりそうだ・・・)

あらかじめ準備された空席は広一の背後。みどりの隣の席だった。

典夫に教科書を見せるため、机を並べるみどりと典夫に心がざわめく広一。

そして授業で「波」について質問された典夫は、恐るべき知識量を披露するのだった。

渡辺「東日本大震災で東北は、大きな被害を被り、多くの犠牲者が出た。今も、避難所で暮らしている方々が、数多くおられる。被害を、あそこまで大きくしたのは、みんなも知ってるとおり、津波だった。…と僕が今しゃべっているこの声も、空気を伝わってキミらの鼓膜まで届く、振動の波だ。波。波とは何だ? 何だと思う? はい、春日愛。」

春日「えっと…海でこう、バシャーンって。」

渡辺「そのバシャーンって何だ? はい、転校生。」

典夫「はい?」

渡辺「波とは何だ?」

典夫「波…。」

渡辺「わからんか。」

典夫「物理学においては、波動という言い方が正確かもしれません。何らかの物理量の周期的変化が、空間方向へと伝わる現象です。」

渡辺「おお、詳しいなあ。後は何知ってる?」

典夫「波動には、振動数、周期、振幅、波長、波数などの物理量が定義されます。音波や水面の波、あるいは地震波のように、物質の振動が媒質を通して伝わる現象の他に、電磁波のように、媒質がない空間を伝わるものもあります。そもそも、宇宙そのものが波であり、渦のようにうねった時空が、複雑な波動で、いくつもの平行世界を形成しています。」

渡辺「ん? 最後の話は何だ?」

典夫「平行世界についてです。」

渡辺「平行世界?」

典夫「ご存じないんですか?D-12世界はご存じですか?」

渡辺「D-12世界?」

典夫「…いえ、何でもないです。」

休憩時間。たちまちみどりと広一、健次郎と愛のグループに合流する典夫。

広一「なあ、さっきのD-12世界って何だよ。」

典夫「何でもない。先生をからかったフィクションさ。SF小説で読んだ話だ。世界はここだけじゃない。よく似た世界がレイヤー状に重なって幾つも存在し、D-8とか、D-12とか、それぞれにナンバーがつけられている。まあ、そんな話さ。D-1世界の人類はある日、知的物質モノリスを発見し、時限移動に成功する。そんな話さ。」

広一「へぇ~。それ、何て小説?」

典夫「何だったかな。忘れてしまったよ。」

広一「アーサー・C・クラークじゃない?2001年 宇宙の旅。」

典夫「アーサー・C・クラークは物理学者だろ?」

広一「小説家だよ。」

典夫「そうだっけ?」

広一「そうだよ。」

みどり「ムー君はSFおたくだから間違いない。」

春日「SF研究会の部長だしね。」

広一「何かバカにしてない?」

春日「してないよ。褒めてんじゃん。」

典夫「そうか。アーサー・C・クラークは物理学者じゃないのか。」

春日「何かさ、変な人だよね。」

健次郎「ストレートすぎるだろ、それは。」

みどりは、幼馴染の広一と話す典夫を興味深く見つめるのだった。

次の授業中、典夫は教室から姿を消していた。理事長と校舎の屋上で密会する典夫。

寺岡「あちらの世界は、どうでしたか?」

典夫「僕の口からは何も言えないが、まぁ、ひどい世界だったよ。それに比べて、ここはとてもいい世界だ。」

寺岡「こちらはこちらでおかしなところは、たくさんありますよ。政治家はバカなヤツらばかりですし、金の亡者がウロウロしている。汚い世界です。」

典夫「それはD-8世界も…いや、どこの世界もそう変わらんな。」

寺岡「そうですか。世界は違えど同じ人間ですからね。根底にある思考回路は、同じようなものなんでしょう。」
寺岡理事長
典夫「そうだな。」

寺岡「ところで我々は何をお手伝いすれば良いのでしょう?」

典夫「王妃が、危険な状態にあるそうだ。」

寺岡「ご病気でいらっしゃる?」

典夫「ああ、それを助けなければならない。ガラテアのテロで負傷された。至急治療が必要だ。DNAの損傷もひどい。」

寺岡「我々に出来ることなら、何なりとお申しつけ下さい。」

典夫「ありがとう。では今すぐDRSのスペシャリストを集めてほしい。スペシャリストで医療チームを編成したい。」

寺岡「DRS? DRSとは?」

典夫「知らないのか? DNAの書きかえ手術だ。」

寺岡「DNAの書きかえ…。私自身、DNAの専門家ではないので存じ上げないんですが。DNAをどのようにして書きかえるんでしょうか?」

典夫「人間には約60兆の細胞があるだろう? 原理的にそれを一つ一つ検証し、修復していくのだが…。まさか…ないのか?この世界には。」

寺岡「あぁ…DNAの研究は盛んですが、生きた人間の60兆もある細胞を書きかえるなんて…。そんな技術は、今までに聞いたこともありません。」

典夫「ない?…それは本当か?」

寺岡「はい。残念ながら…。お役に立てず、申し訳ありません。」

典夫「ならせめて、人工臓器を作る技術は?それぐらいならあるだろう?」

寺岡「そんな技術もそちらの世界にはあるんですか?」

典夫「しかしもう…何もないんだ。こちらには…。何ということだ…。こういう時、人は泣くんだろうな。」

その時、不意に紙飛行機が理事長室の窓の前を通過した。

典夫「なんだ…ただの紙飛行機か。マイクロリコンかと思った。」

寺岡「マイクロリコン?」

典夫「超小型偵察爆撃機のことだ。ちょうどあんな形をしたものだった。王妃はそれで、わき腹に穴を開けられたのだ。」

寺岡「それは、恐ろしいことでございますね」

典夫「ああ、本当に恐ろしかったよ」

典夫は、絶望を胸に屋上を去った。

モノリスの効力を失った理事長は我に帰る。

寺岡「あれ、私はここで何を?」

昼食の席に戻った典夫。

みどり「どこに行ってたの」

典夫「少し手続きが残っていたんだ」

みどり「昼飯は?」

典夫「・・・外ですましてきた」

みどり「ねえあなた。人物についての自由研究で同じ班になったんだけど、いま意見が分かれているのよ」

典夫「・・・?」

みどり「女子たちは麻酔の人体実験で母親を殺して妻を失明させた華岡青州がいいっていうんだけど」

典夫「かなりハードな人物だね」

広一「だろう?女子って基本、残酷なものが好きだよな。男子としてはH・G・ウエルズを推したいんだ」

典夫「SFの父だね」

広一「そうそう、やはり君は僕の仲間なんだな。このクラスの皆ときたらヴェルヌとウエルズの区別もつかないんだ」

典夫「まさか世界一周をしたり、海底を探査したり、初めて月旅行をした冒険家とSF作家を間違えたりしないだろう」

広一「君のジョークは、まったく通じないと思うよ」

典夫「ジョーク」

広一「だろ?」

典夫「そうか、こちらの世界では二人とも小説家なのか・・・」

広一「そうだよ。海底二万里のジュール・ヴェルヌ。タイムマシンや宇宙戦争のH・G・ウエルズさ」

典夫「つまり、この世界にはSFの父は二人いるんだね」

広一「うんそうそうこの世界ではね・・・ということで多数決でウエルズだ」

広一は、みどりに微笑みかけた。しかし、みどりの視線は典夫に注がれているのだった。

放課後。

吹奏楽部みどりは、自分が所属する吹奏楽部に広一を勧誘する。

典夫「音楽か・・・」

みどり「楽器できるんでしょう」

典夫「とにかく、様子を見せてもらいたい」

吹奏楽部の顧問、大谷先生は典夫を歓迎する。

しかし、典夫は・・・

典夫「どうやら、僕には向いていないようです」

大谷「まあ、どうして」

典夫「僕の肺活量には、問題があるのです」

みどり「病気なの?」

典夫「いいえ、生まれつき肺がないのです」

大谷「肺がないって?ああ、先天性なものなのね」

典夫「同情には、およびませんよ。生活には支障がないですから・・・」

しかし、大谷先生もみどりも麗しげに典夫を見つめるのだった。

典夫「では、僕はこれで・・・」

みどり「どこに行くの」

典夫「もう少し校内を偵察したいと思います」

みどり「偵察・・・?」

典夫は、SF研究会部を訪問する。

広一「やあ・・・」

広一は、鈴木(戸塚純貴)や太田(椎名琴音)と自主制作映画の撮影中だった。

ミニチュアの都市を襲う、火星人の戦闘機械のシーン。

典夫「これは面白いな」

広一「ウエルズの宇宙戦争だよ・・・」

典夫「君はH・G・ウェルズが好きなのかい?」

広一「好きっていうか、彼はSFの父って呼ばれてるからね。SF好きの初級編さ。」

典夫「彼は世界で最初に、平和憲法を考案した人物だ。」

広一「よく知ってるね。日本国憲法は、彼の平和憲法をモデルにしてるって説がある。」

典夫「国際連盟も彼のアイディアだ。」

広一「そうそう、詳しいね。」

典夫「しかし、その反面、核兵器を最初に思いついた人物でもある。」

広一「解放された世界。彼はそういう世界になってほしくないから、それを書いたんだ。」

典夫「だが、物理学者のレオ・シラードは、解放された世界を読んで、実際に核兵器を作ってみようと考えた。それがマンハッタン計画に発展し、広島と長崎に原爆が投下された。皮肉な話だが、そういう意味では、H・G・ウェルズは核兵器の生みの親と呼べるかもしれないな。」

広一「でも、解放された世界に出てくる核兵器は、まだ誰も作ってない。H・G・ウェルズの考えた核爆弾は、一度爆発したら爆発し続けるんだ。そう、まるで太陽のようにね。それは知ってた?」

典夫「そうなんだ。まだ誰も作ったことがないのか。」

広一「そんなの作ったら大変だよ。地球が滅んじゃう。」

典夫「だからH・G・ウェルズは、平和憲法を考えたんだ。世界から戦争がなくなれば、核兵器そのものが必要なくなる。それが唯一の手段だと考えた。だが、世界はそうはならなかった。世界は常に、彼の考えた最悪のシナリオどおりに進んだ。そして…滅んだ。」

広一「いや、まだ滅んじゃいないよ。」

典夫「あ、そうだな。悪かった。君の部は面白そうだ。」

広一「入るか?」

典夫「いや。けど、時々また遊びに来てもいいか?」

広一「うん。ぜひ。」

典夫「じゃあ、また来るよ。」

広一「うん。」

拓郎「何者ですか? 部長。」

広一「転校生。」

くみ「何か、怪しい人ですね。」

広一「ちょっと変わった奴なんだよ。」

拓郎「何か、エイリアンみたいですね。」

そして典夫は再び音楽室に向かう。しかしそこは無人だった。

典夫はピアノに向かい・・・「前奏曲第15番変ニ長調・雨だれ/フレデリック・フランソワ・ショパン」を奏で始める。

前奏曲 作品28の15「雨だれ」 ショパン

ショパンの「雨だれ」そこへ大谷先生がやってくる。

大谷「何て曲? あっ…ごめんなさい。驚かしちゃった。」

典夫「この曲、知らないんですか? そうか…ここにはショパンの「雨だれ」がないのか。」

大谷「でも素敵な曲。どうぞ続けて私が用を片付けて教室を閉めにくるまで。・・・でも本当にいい曲だわ知らなかったのが嘘みたい」

大谷が去って間もなく、血相を変えてみどりがやってくる。

典夫「どうしたんだい?」

みどり「財布がないの」

どうやら、みどりは財布を失くしやすいらしい・・・。

典夫「お金・・・」

みどり「お金はどうでもいいの。母の形見の指輪が入っているの」

典夫「カバンは捜したの?」

みどり「最初に見たわよ」

典夫「この辺りにありそうだ・・・」

典夫は、モノリスを使って魔法のように財布の在り処を探り当てる。

みどり「うそ、ありがとう」

典夫「失いたくないという思いが強すぎて、失いそうになるのかもしれないね」

みどり「・・・ねえ。今、ピアノ弾いていたでしょう。もう一度弾いて。凄くいい曲だった」

みどり典夫「いいよ・・・」

みどり「何て曲?」

典夫「ショパンの「雨だれ」。」

みどり「ショパンの「雨だれ」。モーツァルト?」

典夫「いや、ショパン。」

みどり「ショパン…ショパン…。知らない。でもいい曲ね。」

みどりのいる世界にショパンの「雨だれ」は奏でられない。広一やみどりのいる世界は、我々の世界とは別世界なのである。

【用語解説】
ガラテアのテロ・・・旧政府を支持する過激派によって企てられ、ガラテアで勃発したテロ。D-8世界における日本=JPでは、旧政府軍と王家を奉じた革命軍による新政府が戦闘を繰り返していた。紙飛行機サイズの 超小型偵察爆撃機マイクロリコンによって王妃は重傷を負う。

平行世界・・・典夫が物理の授業で語った言葉。典夫曰く、宇宙そのものが波であり、渦のようにうねった時空が複雑な波動でいくつもの平行世界を形成し、そのそれぞれの世界にD-8やD-12などとナンバーがつけられているという。フィクションか、それとも…?

DRS・・・DNA Reproduce Systemの略

D-12・・・平行世界の中で、存在が確認されている次元のひとつ。広一やみどりが住んでいる世界であり、ショパンがいない。

第三話終わり

なぞの転校生 #04

$
0
0

なぞの転校生 #04

岩田広一の見た夢

チョウチョ広一「あすか! あすか! おい、あすか!あんまり遠くに行くな。」

あすか「お兄ちゃん、見て見て。こんなにいっぱいチョウチョとれた。」

広一「おう、凄いな。何だよ? 一匹もいないぞ。」

あすか「何言ってるの? お兄ちゃん。こんなにいっぱいいるじゃない。」

広一「あすか、おい、あすか。あんまり遠くにいくな。」

あすか「お兄ちゃん、チョウチョ蝶々が見えないの?」

広一「チョウチョなんて見えないよ。」

アスカ「チョウチョ、見えちゃダメよ。お兄ちゃんは、チョウチョ見えちゃダメ。」

広一「何だよ。今の夢。」


アゼガミ一方、江原邸ではD8世界とのやり取りが行われていた。

典夫「はい。こちらD-12。」

アゼガミ「モノリオ。準備は進んでいるのか?」

典夫「はい。着々と。」

アゼガミ「王妃の容体が危ない。予定を繰り上げたい。そちらの状況はどうだ? どうした?おい、モノリオ、聞こえているのか?」

典夫「それが…。」

姫「え? モノリオか? 元気か?」

典夫「姫…。」

姫「モノリオが学校に通ってると聞いたが。」

典夫「はい。」

姫「どんなところだ?」

典夫「姫。通信時間は限られています。学校の話は、この世界に来て頂いてから、ぜひゆっくりと。」

姫「わかった。楽しみにしている。」

アゼガミ「一刻の猶予も許されない。そちらはどうだ?」

典夫「まもなく準備が整います。ただ…この世界が想像以上に遅れていて、必要なものがなかなか揃いません。」

モノリス(通信切断まで20秒。)

アゼガミ「もう猶予はない。あと3日ですべての準備を整えろ。」

典夫「アゼガミ様、1つだけ…。どうにか、DRSのプログラムデータだけでも、どこかで手に入らないでしょうか?」

モノリス(残り10秒。)

アゼガミ「DRS? もうそんなものここにあるわけがないだろ。何を言ってるんだお前。…まさかないのか? そっちの世界にも。おい、それがないと…。」

モノリス(通信が途切れました。)

典夫はD8世界でモノリオと呼ばれているらしい。


その頃、広一の家では・・・

君子「帰りにお花、忘れないでね。何? 忘れてるの?」

広一「あっ、今日だった、今日だった!お母さんたちは?」

君子「お昼にね。お線香だけあげにいくわ。」

広一「もう9年か…あすかが死んで。」

君子「8年よ。」

広一「8年か。」

君子「もう! 適当ね!」


学校では、典夫が皆にこんな話をしていた・・・

典夫「この学校の生徒たちは、どういうヒエラルキーを構築しているんだ?」

春日「何それ? ヒ…ヒアルロン酸?」

典夫「ヒエラルキー。ピラミッド型の階級構造の事だ。」

広一「簡単に言えば…上下関係?」

みどり「生徒会みたいなこと?」

広一「まあ、そういう事? 何が聞きたいの?」

みどり「生徒会なんて、単に生徒会長と副会長と書記がいるだけ。あとはみんなただの生徒だけど。どうして?」

広一「ホームルーム委員も、選挙管理委員も、クラブ代表会議も、みんな一応、生徒会の組織の中の構成要員だけど。なんで?」

典夫「その中のボスは?」

広一「ボス? ボスは…生徒会長?ていうか、何が聞きたいの?」

典夫「生徒会長とはつまり、生徒の支配者なのかい? 特徴としては、背が高くて容姿端麗で、筋肉質でスポーツ万能。女性にもモテて、利己的でわがまま。競争心が強く弱者に対しては差別的…。なのかい?」

広一「なんかすげぇ偏った解釈だな。」

大森「ってか、何言ってるかよくわかんない。」

典夫「こういう支配者には必ず、パートナーとなる女子が存在する。それが副会長。フェロモンを放ち、生徒会長を肉体的精神的に独占する。さらにこの、副会長の下には直属の部下達がいて、彼らの手足となって働く。」

みどり「戸田先輩のこと?」

春日「えっ、でも戸田先輩ってセクシーってガラじゃなくない?」

典夫「さらにそのまわりには親衛隊達がいて、上には媚びへつらうが、弱者に対しては高圧的で、金を巻き上げたり、悪事をしたりする。その外側にいるのが弱者だ。マニアックな趣味に走り、その世界に埋没することで現実逃避をする。学校にはこうしたヒエラルキーが存在するようだが、君たちは、どれかな?」

広一「どれなの?って、そんなの選びたくないよ。」

みどり「どれでもないよ。」

春日「でも、ムー君は弱者じゃん。マニアックだし。」

広一「弱者言うな。」

典夫「ということは、ここの生徒達のヒエラルキーはまだ未成熟ということか。」

大森「お前が一番弱者系だけどな。話がマニアック過ぎて、何言ってるかよくわかんねえし。お前2ちゃんに入りびたり過ぎなんじゃね?」


放課後、春日愛と大森がファーストフード店でデート中に典夫が現れる。

典夫「トゲアリってアリを知っているか?」

春日「トゲアリ?」

大森「また変な話始まったよ。」

典夫「トゲアリは自分達で巣を作らない。トゲアリの女王は単独で行動し、オオクロアリの巣に入り込み、女王の部屋に侵入して噛み殺し、そのコロニーを我が物にするんだ。」

大森「またわけわかんねえよ。」

春日「っていうか、それって、サイゾーを倒して自分が学校のトップになるって話そのものじゃん。」

典夫「ちょっと違うな。ちょっと例えが悪かった。」

春日「それには協力できない。」

典夫「何も殺そうってわけじゃない。」

春日「当たり前!」

典夫「危険分子は制圧しておかないと。この学校に招きたい人がいるんだ。」

大森「招きたい人?」

春日「誰?」

典夫「あ…いや、こっちの話。とにかく、君達に迷惑はかけないから、よろしく頼むよ。」

典夫たちはファーストフード店を後にして、不良たちが集まる溜り場の様子を空いたドア越しに覗いていた。


一方、みどりと一緒に墓参り中の広一は・・・

広一「なんかあっという間だよ。最近アイツの夢をよく見る。夢の中のアイツは、昔のままの姿だったり、ちゃんと成長して中学生になった姿だったり。」

みどり「中学生になったあすかちゃん、きっと美人さんね。」

広一「兄貴の俺が言うのもなんだけどね。結構いけてる。なんで夢に出てくんのかなあ?やっぱりもっと長生きしたかったのかな?」

みどり「ムー君がもっと長生きしてほしかったって思ってるからじゃない?」

広一「そうかな? なんかねえ、実感ないんだよね。今でも生きてるような気がして。もういないんだけど。」


才蔵その頃・・・典夫は才蔵とコンタクトをとっていた。

典夫「君が才蔵か」

才蔵「お前は誰だ」

典夫「僕は転校生の山沢典夫です」

才蔵「俺がこわくないのか」

典夫「とくに恐ろしい感じはしませんね」

才蔵「ふ~ん」

才蔵は、ギャンブルで得た景品のチョコレートを典夫に贈る。

典夫「学校には行かないのですか?」

才蔵「行くさたまには。でもあんな偏差値の高い学校、俺には無理なんだよな・・・授業なんて何言ってるかまるでわからないし。でも親が見栄はって俺を無理矢理東西山高校に入れたのさ・・・俺の親、この町じゃなんでもできるから・・・」

典夫「その威光で、あなたは学校を支配しているのですね」

才蔵「支配・・・」

典夫「私はあなたをこらしめるつもりでした」

才蔵「俺をこらしめるって、どうやって・・・」

典夫「さあ・・・」

才蔵「俺なんか運動神経も鈍いし、ケンカも弱いし、そうか冴木のことか・・・」

典夫「冴木・・・」

才蔵「勝手に俺の手下のふりしていろいろやってるんだ。あいつ俺の舎弟をいじめ殺したくせに・・・」

典夫「舎弟・・・」

才蔵「松本っていって、いい奴だったんだ。でも冴木のやり方に反対したら、よってたかっていじめられて殺されちゃった。自殺ってことになってるけどな・・・」

典夫「・・・」

才蔵「なあ、こらしめるんだったら冴木にしろよ。なんなら俺も手伝うし・・・」

典夫「その必要はありません。あなたは喧嘩弱いんでしょう・・・」

才蔵「そうだよ。しかし、なんだって俺は初対面のお前に正直にすべて話しているんだろう」

典夫「あなたがいい人だからですよ」

才蔵「・・・」

典夫「で、冴木は何年何組ですか・・・」

才蔵「・・・いつも屋上にいるよ」

典夫「なるほど・・・」

去って行く典夫の後ろ姿に思わず手を振る才蔵だった。

次の日、教室に典夫の姿はない。

「どうしたんだろう・・・」と案ずるみどりに広一はまた妙な胸騒ぎを感じるのだった。


その時、典夫は屋上にいた。

冴木小次郎(碓井将大)とそれをとりまくいかにもヤンキーのような生徒たち。

冴木「なんだお前。」

典夫「君が冴木君か。僕は山沢典夫。転校生だ。」

冴木「だから何だよ?」

典夫「君がどんな奴か知りたくてね。授業も受けないのに、毎日わざわざ学校には来るんだな。どうして?」

冴木小次郎小次郎「何だとコラ!」

典夫「松本君の自殺についてどう思ってる?」

冴木「何だお前、松本の、ダチか。」

典夫「いや、会ったことはないが。ただ、君がどういう奴か知りたいだけさ。」

冴木「俺がどういう奴か知りたいのか。俺は…こういう奴だ!」

問答無用で冴木は典夫に飛び蹴りをくらわす。典夫は、そのまま屋上から地上へ落下した。

どよめく・・・とりまきたち・・・。

「いくらなんでもやりすぎだろう」とヤンキー風の女生徒である咲和子(樋井明日香)。

しかし冴木は、狂ったように笑いだすのだった。

冴木「あはは落ちちゃったよ。あははは死んじゃったよ。あはははは殺しちゃったよ。」

死んだように・・・横たわる典夫。

屋上にいた咲和子が屋上から心配して下りてきた。

咲和子「おい。」

典夫「あいつがどんな奴かわかったよ。さて、教室に戻るとするかな。」

咲和子「ちょっと待てよ。大丈夫かよ?」

典夫「何が?」

咲和子「何がって、体だよ。」

典夫「ああ、平気さ。地球程度の重力じゃ壊れないよ。それにこんな距離、たいしたことない。」

咲和子は、まるで化け物を見る目でなぞの男子生徒を見送る。

ちなみに咲和子役の樋井明日香は、23歳で高校一年生の不良役をしている。出演者の広一と典夫も23歳で高校二年生の役になっている。なんちゃって高校生だ。本物の高校生は、みどり役の桜井美南と姫役の杉咲花が16歳なので違和感がない。

第四話終わり

桜井美南

$
0
0

7スタライブ なぞの転校生 桜井美南 中村蒼 本郷奏多

桜井美南桜井美南(1997年5月17日 - )は日本の女優でワタナベエンターテインメント所属。
特技は馬術・ギター、趣味は音楽鑑賞。身長は153cmしかない。

2013年11月12日、 ネスレ日本の2014年「5代目キットカット」受験生応援キャラクターに8172名の応募者の中から選出され、現在の事務所に所属。

2014年1月テレビドラマ『なぞの転校生』のヒロイン・香川みどり役(中村蒼、本郷奏多とのトリプル主演)で女優デビューとなり、同作の主題歌でCDデビューした。


桜井美南 / 今かわるとき

なぞの転校生 #05

$
0
0
なぞの転校生 #05

広一はSF研究部からSF研究会に格下げになったクラブハウスで自主制作映画「宇宙戦争」のジオラマ特撮に熱中するのだった。

そこへ・・・年下の幼馴染である咲和子(樋井明日香)がやってくる。

咲和子「岩田広一いるか?ちょっと顔かせよ」

応じる広一を不安げに見つめる後輩の鈴木拓郎(戸塚純貴)と太田くみ(椎名琴音)・・・。

階段の踊り場で広一と咲和子は話しあう。

咲和子「ここだけの話にしてくれよ」

広一「なんだよ・・・」

咲和子「山沢典夫って知ってるだろう」

広一「山沢・・・」

咲和子「あいつ屋上から落ちた・・・」

広一「屋上から?それで山沢は・・・」

咲和子「ピンピンしてた」

広一「なんだそりゃ」

咲和子「おかしいだろう・・・」

広一「・・・」

咲和子「もしかして家に帰ってから内臓破裂で死ぬんじゃないかって・・・」

広一「内臓破裂してたらその場で死ぬだろう」

咲和子「こわいんだよ・・・」

広一「おいまさか落ちたんじゃなくて、落されたんじゃないだろうな」

咲和子「・・・」

広一「お前、まだ不良たちと付き合ってるのか」

咲和子「ほっとけよ。それより山沢のことが心配なんだよ。あんた、山沢のお隣さんなんだろ・・・」

咲和子は泣きだすのだった。

広一「わかった。帰って様子を見る」

急いで帰宅した広一は隣家を訪ねるが、江原老人は山沢の不在を告げる。

所作に窮した広一は最近、山沢に興味を示している香川みどり(桜井美南)に連絡をとる。

広一「山沢が屋上から落ちたらしい」

みどり「なんですって・・・」

みどりは飛んでくるのだった。

その迅速な対応に胸騒ぎを感じる広一。

その時、江原老人が外出してくる。

みどり「尾行しなさい」

広一「え」

みどり「何か事情があるかもしれないでしょう」

広一「君は・・・」

みどり「あんたバカ、二人で行ったら、部屋に山沢くんが戻って来た時にフォローできないじゃない」

広一「・・・」

みどり「急いで、見失うわよ」

広一が去ると広一の母・君子(濱田マリ)が部屋から出てくる。

君子「あら、みどりちゃん。ムーくん(広一)いないわよ」

みどり「知ってます」

君子「じゃ部屋に入って待つ?」

みどり「お構いなく。私、今、見張ってるんで」


広一が尾行する江原老人は人気のないガード下にやってきた。

老人とは思えない移動速度に不審を感じた広一は物陰に潜む。

そこへ、山沢を屋上から蹴り落とした冴木(碓井将大)がやってきた。

冴木「なんだじじい、こんなところに呼び出して・・・なんのつもりだ」

江原「お前を手下にしてやろうと思ってな」

冴木「なんだと・・・こら」

しかし、冴木は言葉を飲む。不可思議な燐光が目の前の老人から発し始めたのである。

冴木転送冴木「なんだこりゃ」

江原「お前をまだ見ぬ世界に連れてってやるよ」

冴木「おい、よせ」

黒い光は、やがて冴木を包み込む。

緑色の発光が消失すると、冴木は暗闇に包まれいた。

広一「なんだ、まるでブラックホールみたいな」

一瞬で黒い影は消えて冴木も消失していた。

広一「人間消失現象」

広一は、あわててみどりに電話した。

みどり「もしもし広一くん?山沢くんいた?」

広一「ボクとんでもないものを見ちゃったよ・・・」

みどり「なんですって・・・」

広一は絶句する。目の前に江原老人が立っていたのだ。

江原「岩田広一に見られてしまいました。どうしますか?」

広一「・・・」

江原「わかりました。記憶を消去します」

広一「え・・・」

次の瞬間・・・顔面がよじれたように歪むのを感じながら広一は失神した。

みどり「広一君、どうしたの」

広一からの連絡が途絶えた後も、みどりは監視を続行する。

まもなく江原老人が帰ってくる。

街に黄昏が迫る頃、ようやく広一が電話を取った。

みどり「広一くん、一体何があったの?」

広一「わからない。ボクは、なぜこんなところに・・・」

みどり「おじいさん、帰って来たわよ」

あわてて自宅マンションに戻る広一。エントランスには思いつめた顔の咲和子も待っていた。

三人は再び、江原老人の呼び鈴を鳴らす。

室内では・・・。

江原「トランスフォーム(物質転送)は上手くいきましたか・・・」

典夫「ああ」

江原「あの連中はどうします」

典夫「僕が対応しよう・・・」

典夫は・・・ドアを開いた。

咲和子典夫「何だい?」

広一「あっ、いた。」

みどり「山沢君大丈夫?」

典夫「何が?」

みどり「今日、屋上から落ちたって聞いたんだけど。」

典夫「屋上から? 落ちたよ。」

みどり「大丈夫? ケガはなかった?」

典夫「ないよ。大丈夫。」

咲和子「いくらなんだって、骨ぐらい折れただろ。屋上から落ちたんだ。」

典夫「全然大したことないよ。」

咲和子「大したことないって、あんた、内臓破裂でもしてたら…」

典夫「屋上から落ちて、内臓破裂でも起こして、僕が今頃死んでるんじゃないかとでも思ったんだろう。そしたら冴木は殺人犯だ。君はそれを心配して様子を見にきたというところか。」

咲和子「なんだと?」

広一「山沢、そんな言い方ないだろう。みんな心配してたんだ。」

みどり「そうよ。今日だってずっとずっと心配して。もう何時間も。」

典夫「おじいちゃんを尾行したりかい?」

みどり「え?」

広一「知ってたの?」

典夫「おじいちゃんが言ってたよ。僕の体のことなら心配しないで。」

みどり「だったらいいんだけど…。」

広一「何か、気分でも悪くなったら、いつでも声かけてくれよ。」

典夫「ありがとう。じゃあ。おやすみ。」

仕方なく解散する三人だった。

室内には首に怪しい★(星型)の装置を付着させた冴木が横たわっている。

江原「こいつはどうなるんですか」

典夫「精神改造をするためには厳密な倫理規定がある。次元を異にするこの世界にそれを持ち込むのは無意味だが、とにかく何かに準拠しなければ装置が発動しないのだ。このものは非常にモラルに欠けた精神を持ち、悪の因子が適用基準値に達していたのでバイオアプリ(生体適性化プログラム)のアステロイド(人体隷属化装置)使用許可が出た」

江原「私のような役立たずと一緒ですな」

典夫「お前は違うよ。お前はどちらかと言えば無垢な状態だったので、モノリスのマギ(魔法機能)を分与している。非常に高価な精神制御状態だ。バイオアプリは使い捨ての消耗品だからな」

江原「悪の因子を除去するのですか」

典夫「いや脳内にバイパスを作り、個体の意識を遮断して、精神機能をコントロールするのだ。バイオアプリは言わば高度なリモコン受信機だよ。こちらの指示通りに個体を行動させるためのね」

江原「彼は永遠に奴隷ですか」

典夫「いや、およそ七日間で機能を停止する。バイオアプリは安価な消耗品なのだ。その後の精神状態については個体差があって断定できない」

江原「・・・」

典夫「このような個体をもう少し確保する必要がある」

江原「兵力の増強ですな」

典夫「うむ」


翌日、典夫は鎌仲才蔵(葉山奨之)にコンタクトした。

才蔵「こんなクズ野郎たちをリストアップしてどうするつもりだ」

典夫「人間はムダが多い。ちょっとしたところを修復してやれば、そんな人たちでも、立派に役に立つ人間になれる。」

才蔵「こいつらが? ないない! まともじゃねえんだから。なんつうか、人生諦めたって感じだぜ。」

典夫「大丈夫。そんな彼らに能力を与えるアプリがある。」

才蔵「能力を与えるアプリ? なんだよ?それ…。だったら俺にもくれよ。こんな自分が嫌なんだよ。」

典夫「そうか? そうは見えないけど。」

才蔵「嫌なんだよ。何もかもが。どっか遠くで、誰も知らないところで暮らしたい。親父がさ、再婚すんだよ。3回目だ。今度は弟と妹がついてくる。俺の母ちゃんはさ、離縁されて、パーマ屋一つ恵んでもらって生きてるけど、俺と会っちゃいけねえことになってる。そうだ! だったら親父を頼むよ。こりゃ本物の極悪人だ。一番酷いのを忘れてた。こいつを改造してくれ。」

典夫「キミの父さんか…。」


典夫は不良たちの溜り場となっている雀荘に乗り込むと★を健康器具と偽ってクズたちに装着することに成功する。

そこへ行方不明となった冴木を捜しに咲和子がやってくる。

咲和子「冴木を知らないか」

典夫「ボクでなければ死んでいたかもしれない。つまり彼は殺人者だ。しかも彼はその後で笑っていた」

咲和子「・・・」

典夫「あんなロクでもない男が好きなのか?」

咲和子「そんな悪いヤツでもねえんだよ。」

典夫「僕はあいつに屋上から落とされたんだ。僕だったから良かったけど、ホントだったらあいつは人殺しになるところだった。なのに、あいつ笑ってたろ。」

咲和子「震えてたんだ! …震えてたんだ。あの時、てめえが落ちて、笑いながら…でも、体は震えてた。」

典夫「だから、どうした?」

咲和子「別に…なんか話しろよ。」

典夫「君にとって幸せとは?」

咲和子「うぜぇこと聞くな!」

典夫「君には守るものがある。それが幸せなんじゃないのか?」

咲和子「知るか!」

典夫「いい子だ。僕はあの子にとって、いい事をしたんだろうか? 悪い事をしたんだろうか?」

被害者よりも加害者を案じる憐れな女子高校生は去っていった。

典夫「君の愛の因子も僕の愛の因子も愚かさや罪深さに変わりはないのかもしれない」

典夫は、奴隷化された冴木を従えて次の行動に移る。

D12世界の医療はかなり貧弱なものだったが・・・それでも被曝者である王女(杉咲花)のために治療体制を整えなければならない。

残り少ないモノリスのマギを使い、開業医を洗脳する典夫。

典夫「出来る限り、最高の放射線症の専門医を召集してもらいたい」

開業医「かしこまりました・・・」

後続部隊の転送期限は迫っていた。D12世界の人々は、侵略の開始に誰一人気がついていない。

【用語解説】
アステロイド・・・人を操るためのバイオアプリ、もしくは、操られている人(レイバー)の総称。悪の因子を持つ者だけにアステロイドの利用は限られるとD-12世界では定められている。操られている間は、別人のようになる上に、一度操られると二度と元の人格には戻れない。移植に時間がかかる上に、使用可能期限は1週間だが、モノリスのマギに比べて安価で、手に入りやすい。

マギ・・・人を操るためのモノリスのアプリ、もしくは、操られている人(レイバー)の総称。その名は「賢者」に由来する。アステロイドのように人格を変えるものではなく、操られている間の記憶は本人には残らない。モノリスの容量が続く限り、使用し続けることができる。

第五話終わり

なぞの転校生 #06

$
0
0

なぞの転校生 #06

なぞの転校生の原作には登場しないが、NHK少年ドラマシリーズでは異次元人の象徴として登場する★(星型)のアザ。ドラマ24版では、人格改造装置・アステロイドとして登場する。

侵略の拠点となった江原正三(ミッキー・カーチス)の部屋でモノリオに社会不適合者として認定された男たちは、モノリオの使い捨て使用人として改造されている。知的物質モノリスを利用したD8世界では、人類は禁断の領域にまで発達したテクノロジーが存在する。

アステロイド使用奴隷一号となった殺人者・冴木(碓井将大)は、モノリスによって活性化した江原老人と共にモノリオの支配下に置かれた。

社会的に不適合な悪の因子を持った冴木に魅了されていた女子高校生・咲和子(樋井明日香)は消息不明となった彼を求めて、今日も不良たちのたまり場だったひび割れた壁のある屋上に姿を見せる。

咲和子「冴木、どこへ行っちゃったんだ・・・」

そこへ女友達が冴木の目撃情報をもたらす。恋する女は冴木の元へ駆けつける。しかしそこにいたのは、江原老人と共に買い物袋を提げた大人しい冴木だった。

冴木買い物咲和子「冴木、何やってんだよ」

冴木「買い物ですけど」

咲和子「ですけどって・・・このじじい、誰だよ?」

冴木「山沢くんのおじいさんです」

咲和子「山沢くんって・・・」

冴木「知ってるだろう?山沢くん・・・」

咲和子「・・・」

冴木「ほら一昨日、僕が屋上から突き落としたあの山沢くんだよ」

咲和子「何なの? 何で僕とか言っちゃってんの?あんたいつからいい人になったんだよ?」

冴木「えっ? いい人になんかなってないよ。山沢君の家に近々引っ越しする人がくるから、そのお手伝いをしようと思って。」

咲和子「喋り方とか別人。あんた、ホントに冴木小次郎? ねぇあんた、どうしちゃったんだよ?」

冴木「どうもしないよ。一昨日山沢君のこと、屋上から落としちゃったじゃない。彼、危うく死ぬところだったよ。だからその罪滅ぼしっていうのもあってさ、彼のお手伝いを買って出たんだ。いくら謝っても謝り足りないけど、謝れる限り謝るよ。」

咲和子「うぜぇ。うぜぇ~!」

思わず買い物袋を叩き落とす咲和子。

冴木「だめだよ。食べ物を粗末にしちゃ・・・」

落ちたものを拾う冴木の首に★を発見する咲和子。

咲和子「なんだよこれ・・・」

冴木「痛いっ」

咲和子「え・・・」

冴木「とにかく、僕は君にもひどいことをしたことがあるから今度謝るよ。でも今は、買い物を山沢くんの家に届けなければならない」

咲和子「何なんだよ。どうなっちゃってんだよ。ワケ分かんねえよ」

仕方なく、冴木を追跡する咲和子だった。江原老人の住居の前に巨大なトラックが停車していた。

モノリオの奴隷となった街の不良たちは、次から次へと荷物を江原老人の部屋へ搬入していた。

奇妙なことに巨大なベッドまでが、それほど大きくない老人の部屋の扉を通過していく。

そして老人の部屋のスペースには、到底おさまりきれない物品が次から次へと運びこまれて行くのだ。

しかし咲和子はそのことに気がつかず、作業を監督するモノリオと鎌仲才蔵(葉山奨之)に目を留めるのだった。

咲和子「おい、これどういうことだよ」

才蔵「やあ、君か」

咲和子「なんであいつらが山沢の手下になってんだ」

才蔵「おいおい、山沢はあいつらを手下になんてしてないぞ。あいつら、喜んで仕事してるよ。なんていうか山沢に惚れたんだな」

咲和子「なにいってんだサイゾー。お前もおかしくなっちゃったのか」

才蔵「なんでだよ」

咲和子「急に山沢と仲良くなるなんておかしいじゃねえか」

才蔵「俺は山沢とダチになったんだよ。みんなだってそうさ。ようするに目覚めたんだ」

咲和子「何に目覚めたんだよ、お友達ごっこか?」

才蔵「だから本当にダチになったんだよ。見りゃわかるだろう」

咲和子咲和子「そんなバカなこと信じられるかよ」

才蔵「お前本当にさびしいやつだな」

咲和子「お前に言われたくねえよ」

二人のかみ合わない口論をよそにモノリオは告げる。

典夫「ちょっと出かけてくる。後は頼んだよ」

才蔵「まかせておけ」

モノリオは、冴木を連れてその場を離れる。

咲和子は、男たちの首筋に★があるのに気がついていた。

咲和子「おいサイゾー、ちょっと首を見せろ」

才蔵「なんだよ、お前まさか俺に」

咲和子「違うよない、お前はないのか」

才蔵「なんの話だよ・・・」

咲和子は何か、想像を超えた出来事が起きていることに気がついた。

しかし、それが何かを理解することはできなかった。


モノリオと冴木は、この町の実質的な支配者であるサイゾーの父親・鎌仲龍三郎(河原さぶ)の経営する鎌仲商事へやってきた。

冴木だけがロビーの受付を訪ねる。受付嬢(皆川舞)は来訪者としては奇妙な少年に笑顔で応ずる。

受付「何か御用でしょうか」

冴木「僕は、鎌仲会長のご子息のサイゾーくんの友人です。鎌仲会長に会いたいのですが」

受付「少々、お待ちください」

やがて会長の意を受けたらしい鎌仲商事常務の笹井(野口雅弘)が現れる。

笹井「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか」

冴木は、モノリスを取り出していた。モノリスによる閉鎖空間が形成され、空間内の人格は情報操作の対象となる。

冴木「会長室はどこか?」

笹井「44階にあります」

冴木「会長はいるのか?」

笹井「はい。しかし、入室には虹彩認証が必要です」

冴木「君の虹彩は、登録されているか?」

笹井「はい」

モノリスは、笹井の虹彩を瞬時にコピーした。

もちろん屋外からモノリスを通じて冴木をコントロールしているのはモノリオである。


東西山高校2年3組では、のどかに不在の山沢典夫が話題になっていた。

「山沢くん、今日も欠席だよ」と春日愛(宇野愛海)。

「なんだかおかしいよな、あいつ」と大森健次郎(宮里駿)。

みどり「別におかしくはないと思うけど、ちょっと心配よね。ムーくん、帰りに一緒に寄ってみない?山沢くんのとこ」

広一「うん・・・」

みどりと広一は、山沢が屋上から落下して無事だったという奇妙な話を聞いていた。

しかし、実際にどうだったかについては半信半疑である。話の出所が不良の咲和子だったからである。

そして広一は、その後に驚くべき光景を目撃するがその記憶は消去されてしまった。

だが、二人の感じる山沢典夫に対する違和感は微妙にずれている。

転校生の奇妙な行動については、クラスメートたちも不信感を募らせていた。

ホームルームで担任の大谷先生(京野ことみ)に山沢の不審な行動を問う声があがる。

「あの転校生、このままでいいんですか?」

「授業を平気で抜け出すし、欠席ばかりだし」

「理事長の親戚で入学試験もフリーパスだったとか」

「ま、どうでもいいんですけどねえ」

大谷先生は人格制御された寺岡理事長(斉木しげる)の説明を生徒に伝える。

大谷「山沢くんは理事長の親戚ではないそうよ。入学試験を受けて合格したけれど健康的な問題でこれまで通学ができなかったそうです。学力的には二年に編入しても問題ないことはみんなも知っているわよね。これはプライベートなことなのであれなんだけど、学校を休みがちなのは健康的な問題がまだ解決していないということだということ。そのあたり、みんなもくんであげるといいと思う」

みどりは問題が解決したような気分になり、思わず拍手するのだった。

数人の生徒たちが拍手に加わる。しかし、広一は拍手の輪に加わることができなかった。

山沢のことが気になるのか、山沢をかばうみどりのことが気になるのか・・・。

広一は自分の気持ちを持て余す。そそくさとSF研究会の部室にこもった広一をみどりが追いかける。

みどり「どうして拍手してくれなかったの」

広一「あんなの茶番だもの」

みどり「茶番ってどういう意味?」

広一「入学試験に合格したなんて、あいつは俺に会うまでこの学校の存在すら知らなかったんだぜ」

みどり「なんだか冷たいのね。ムーくん山沢くんのこと、どう思っているの」

広一「変なやつだ」

みどり「変って・・・」

広一「屋上から落ちてピンピンしている奴が、健康に問題があるってどういうことだよ」

みどり「そのこと、みんなに言ってないでしょうね」

広一「みどりが言うなって言うから、言ってないよ」

みどり「これ以上、変な噂がたったら可哀想だもの」

広一「みどり・・・君は山沢の事が好きなのか」

みどり「そんな、そういうんじゃないわ。山沢くんは、同じ班の仲間じゃない」

記憶喪失広一「・・・そうかな」

みどり「なによ、どういう意味」

広一「さあ?みどりは、山沢に優しすぎると思うから」

みどり「私は・・・」

広一「あいつをおかしいと思わないのがその証拠だ」

みどり「・・・」

広一「知りもしなかった学校の入学試験に受かっているなんて、記憶喪失でもしてるみたいじゃないか」

みどり「記憶喪失よ! あの人記憶喪失なのよ。だから、何かおかしいのよ。そう思わない?」

広一「記憶喪失って、そんな滅茶苦茶な…。」

みどり「山沢君はムー君が好きなのよ。ムー君がいたからこの学校を選んだんでしょ? 山沢君が記憶喪失だとしたら、何か、ひっかかったんじゃない? あなたに。だからこの学校を選んだら、実はもう入学している学校だった。どっかで会ってるんじゃない? あなた達2人。この学校と失くした記憶を繋ぐヒントが、ムー君だとしたら、ひょっとしたらムー君、彼の記憶も蘇らせることができるんじゃない?」

広一「凄いね、みどり。SF研に入んない?」

みどり「いい推理でしょ。」

広一「っていうか、一生懸命すぎるよ、あいつに。」

みどり「そうかな?」

広一「覚えてる? 夜の体育館でみどりが俺に言ったじゃん。俺はみどりのことが好きなんじゃないかって。図星だったよ。俺はみどりのことが好きだ。でも、みどりは山沢のことが好きなんだな。」

みどり「流れ星に何てお願いしたと思う?私の好きな人が、私のこと好きになれって願ったの。それってあなたのこと。」

広一「だったら、その願いは願う前に叶ってたよ。」

みどり「やった!」

広一「喜んでいいの?」

みどり(頷く)

広一「本当に?」

みどり「ムー君、ひどい。何でこんなタイミングにこんなこと言い出すの? あの夜、体育館で言ってくれたらよかったのに。」

広一「何で今じゃダメなの?」

みどり「自分でも、自分の気持ちがわからくなってる。」

みどりは典夫に心を奪われていると確認してしまった広一は、衝動的に撮影中の模型を叩き壊してしまう。切なすぎるシーンだった。

鎌仲龍三郎
一方、冴木は会長室に乗り込んでいた。

会長「なんだ君は・・・」

冴木「冴木です・・・」

会長「冴木?」

モノリスが鎌仲会長の高次元精神改造を開始する。

屋外では、モノリオが制圧の完了を確認しようとしていた。

しかし、モノリオのモノリスは警報を発するのだった。

典夫「なんだよりによって、この局面で不具合が起るなんて・・・」

あわててモノリオは会長室に向かう。そこに咲和子が現れる。

ロビーでは、閉鎖空間に閉じ込められた受付嬢と笹井常務がフリーズしたままだった。

咲和子「なんだ・・・これ」

典夫「君、どうしてここに・・・」

咲和子「お前を尾行してきたに決まってるだろう」

典夫「・・・」

咲和子「おい待てよ!説明しろよ」

典夫「そんな暇はない。ついてくると、君は死ぬことになるよ」

咲和子「死ぬって・・・」

思わず立ち止まる咲和子。

モノリオは会長室へ向かう。逡巡していた咲和子の前にサイゾーが現れる。

咲和子「お前、なんでここに・・・」

才蔵「何言ってんだ?ここは俺の家だぜ」

呑気に階段を上がるサイゾーを追う咲和子だった。

会長室では、モノリオが警告メッセージを放っていた。

会長と冴木はモノリオの影響下に置かれ、精神的にも肉体的にも危険な状態に置かれている様子である。

「何が起きた」と問うモノリオ。

モノリス「ターゲットはモノリスを初期化しようとしています。ターゲットを殺しますか?あるいは、モノリスを初期化しますか?ターゲットはモノリスを初期化しようとしています。」

ターゲットを殺しますか典夫「モノリスの誤作動か?」

警報を聞いた才蔵と咲和子も階段を駆け上がる。

才蔵「お前、何やってんだよ?」

典夫「細かく説明している暇はない。俺が殺せと言ったら、親父の心臓をマッサージしろ。」

才蔵「えっ? 何で殺す?俺に親父を殺させるつもり?」

典夫「違う。逆だ。心臓マッサージをしろ。心臓マッサージだ。心臓が止まるから動かすんだ。いいか?」

才蔵「やったことねえよ。」

典夫「とにかく、心臓が動くまで力いっぱい胸板を押すんだ。ポンプみたいにな。あばら骨が折れてもだ。」

才蔵「わかった。つまり、親父の心臓が今、止まっちまってんだな。それを動かすんだな。わかった。」

典夫「止めるのは今止めるから、すぐ動かすんだ。」

才蔵「はぁ? ちょっともう、分かんなくなってきた。」

典夫「わかった。一つだけ、心臓をマッサージしろ!」

才蔵「わかった。」

モノリス「ターゲットを殺しますか?あるいは…」

典夫「殺せ。(才蔵に) 早く!」

才蔵「ああ。こんな感じか?」

典夫「うまいうまい。(冴木に) 行くぞ。(咲和子に) お前も逃げろ。おい!」

咲和子「私は逃げないよ。」

典夫「はっ?」

咲和子「ここに残る。今見たことを警察に話す。あんたが鎌仲会長を殺したことを、警察に話す。」

典夫「馬鹿な、そんなことをしたら・・・」

その時、冴木のモノリスが活動を再開する。冴木はモノリスから咲和子にむかって心肺停止信号を射出する。

冴木小次郎典夫「やめろ!」

咲和子は、のけぞりながら心臓の鼓動をとめる。

その時、会長が息を吹き返す。

冴木「この判断は正しかったと思いますが…。」

才蔵「生き返ったぞ!」

典夫「よくやった。次はこの子だ。」

才蔵「えっ?」

典夫「急げ!」
咲和子は、のけぞりながら心臓の鼓動をとめる
才蔵「おっぱいがあるぞ!」

典夫「気にするな。揉め!」

モノリオは、冴木を抱えて退避行動を開始する。

冴木「咲和子を助けるんですか?任務に反するのでは?」

典夫「殺したらもっと厄介なことになる。最善とは言えないが、妥協案としては悪くない。」

冴木「いっそ、警察も制圧してしまっては?」

典夫「そんな余裕はもうないよ。D-8世界から追加のモノリスを送ってもらえないと。それより、困ったことになったな。」

冴木「咲和子のことですか?」

典夫「いや、問題は鎌仲龍三郎だ。モノリスをコントロールしようとした。」

冴木「え?」

典夫「単なるバグなのか、あるいは誰か好ましくない者が、この世界に来ているということなのかもしれない。」


不確定要素を残しながら、モノリオは次元回廊を解放する期限を迎える。

典夫「なんとか、間に合ったな」

江原老人の部屋は、D8世界のテクノロジーによって容積を拡大していた。

合わせ鏡のような次元通路の開口部は、無限の彼方に向かって開かれる。

やがて、崩壊しつつあるD8世界からの移住者たちが回廊に現れた。

モノリオの奴隷たちは回廊に入りこみ、移住者たちの通過をサポートする。

従者達がD8世界からの荷物を運び入れている。やがて白泥に覆われたようなアスカ姫(杉咲花)の姿が出現する。

次元通路姫「久しぶり。モノリオ。」

モノリオの上官であるアゼガミ(中野裕太)がやってくる。

アゼガミ「王妃様が重体だ」

典夫「準備はできております。ストレッチャーのままこちらへ」

寝台車の王妃(りりィ)は拡張された空間にある手術室に運び込まれる。そこはモノリスによって高機能洗脳された医師(並樹史朗)や麻酔医(早川知子)や看護師(山崎智恵)が待機している。

麻酔医「麻酔かかりました」

医師「腹壁損傷のオペを始めます・・・バイタル」

看護師「レート60・・・血圧75・・・STO2 98%」

医師「針糸サンゼロ」

看護師「はい・・・」

移住者たちの長い夜が過ぎていく。やがて夜が明け朝を迎えた。モノリオは彼らを屋上に連れていく。


典夫「D-12世界は美しいところです。今日は青空も見えそうだ。太陽も昇っています。」

D-12世界は美しいスズシロ「青空…美しい。」

アゼガミ「素晴らしい。」

スズシロ「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際 少しあかりて 紫だちたる 雲の細く たなびきたる」

アゼガミ「D-12の者たちは、毎日こんな美しいものを見て暮らしていたのか。ゲホッ…。」

スズシロ「こんな世界があったのね。なぜ彼らはああもやすやすとこれらを手放せたのだろう。」

アスカ「プロメテウスの火は、いつまでも燃えていたわ。」

燃え続けるプロメテウスの火。それは恐るべき破壊を招いたテクノロジーの暴走を指すのか。それともD8世界を滅亡に導いた人工太陽なのか・・・。すべては、まだ謎に包まれている。

【用語解説】
プロメテウスの火・・・核兵器。100のゾーンから同時にD-8世界に放たれた。アンゴルモアの火とは異なる核兵器なのかは定かではない。この攻撃によってD-8世界は滅亡し、王妃、アゼガミ、スズシロ、そしてアスカはこの火を至近距離で見て、人体に致命的な被曝を受ける。

第六話終わり

なぞの転校生 #07

$
0
0
なぞの転校生 #07

江原邸では王妃の手術が行われていた。手術を見守った典夫はD-8世界の従者の元へ行った。

アゼガミ「狭いところだな」

江原「申し訳ございません」

スズシロ「この世界には、こんな場所しかないのか」

アゼガミ「そんなはずはない。ここはこの老人が年金で一人暮らしをしていたマンションだ」

江原「いや、年金だけでは賄えません。退職金と株で少々設けた金で細々と…」

アゼガミ「お前の話なぞいい」

スズシロ「王妃や姫に申し訳なさすぎる」

典夫「この場所を拠点と定めたのには3つ理由があります。1つはらせん軌道上でゾーンが最も安定している16のポイントの1つであったということ。もう1つは、ここがD-8世界において王家の場所であったということ。そしてもう1つ、ナギサ様のアイデンティカがこの地におわします。それをお守りする必要があると判断いたしまして。」

アゼガミ「どこに」

典夫「この隣です」

アゼガミ「なんと…」

スズシロ「どちらの方向に」

典夫「あちらです」

スズシロ「それはもったいない」

スズシロ「ご健勝であられるのか?」

典夫「はい」

スズシロ「それは何よりだ」

典夫「このような場所にお連れして申し訳ございません」

スズシロ「姫、もう少しマシな場所を探させますので、しばらくはここでご辛抱くださいませ」

姫の汚れを洗い流すモノリオ。髪を拭きながら姫が言う。

アスカは、枯れた一輪の花に目を止める。

アスカ「これは」

典夫「花でございます。もう枯れてしまいましたが」

アスカ「枯れた花」

典夫「はい、この地の友人からもらいました。」


その時、江原老人(ミッキーカーチス)の部屋の呼び鈴がなる。

香川みどり(桜井美南)が来訪していた。

「香川みどりです。追い払いましょうか?」とモノリスのマギに制御された江原老人がモノリオに問う。

典夫「いや、僕が応対しよう」

みどりは、花束を持っていた。

みどり「おはよう。これおみやげ…ほら、うちは花屋だから」

典夫「ありがとう」

みどり「具合はどう」

典夫「具合?」

みどり「身体の調子」

典夫「特に問題はない」

そっけないモノリオの態度にじれるみどり。

幼馴染には告げられた率直な気持ちが、なぞの転校生には告げられない。そのもどかしさが胸を打つ。

典夫「今、少したてこんでいる用件があるならまた今度」

みどり「ううん別に用はないの。ちょっと心配だったから」

典夫「君に心配をかけるようなことはない」

みどり「そう。明日は学校に来る?」

典夫「まだわからない」

みどり「それじゃ、また」

典夫「お花をありがとう」

扉は閉じられた。みどりは物憂い表情で部屋を後にする。

岩田広一(中村蒼)は、倦怠感に包まれてベッドにいる。

幼馴染に告白して瞬殺されたことが広一の胸をふさいでいる。

広一「何もやる気がしない」

好きな女の子がなぞの転校生に花束を贈ったことにも気がつかないうかつな広一だった。

モノリオに贈られた花束は、そのままアスカに捧げられる。

アスカ「これは」

典夫「この世界の花でございます」

アスカ「美しいな」

典夫「この世界には、花が満ち溢れています」

アスカ「香りが」

典夫「お気に召しましたら、いくらでも調達できますが…」


その時、突然江原老人はモノリスのマギの恩恵を失い、ただの認知症の老人に戻る。

江原「うわなんだ!おまえたちはなんだ」

「無礼者」とスズシロは立ち上がり、江原老人を暴力で鎮圧する。

典夫「すみません。モノリスのリミットが来たようです」

アゼガミ「なぜ、そんなしくじりを」

典夫「申し訳ございません。マギのタイムリミットが過ぎてしまったようです。実はあの男、認知症で、我々の事を幻だと思っています。ただ、時々錯乱状態になります。」

スズシロ「王妃と姫の御前で危険すぎるぞ。ずっとコントロールしておけ。」

典夫「それは無理です。モノリスのストックがありません。」

スズシロ「そいつらは、大丈夫なのか?」

典夫「彼らはマギではなく、アステロイドを。」

スズシロ「こやつらはアステロイドか? そんな卑しい者達を、この部屋になぜ入れる?これが王家の護衛隊とは…。嘆かわしい。」

典夫「彼らは必要な員数でございます」

スズシロ「・・・」

典夫「お二人には打ちあわせしたいこともあり、この地の偵察を具申いたします」

スズシロ「偵察か」

日傘典夫「紫外線が有害ですので、日傘を用意下さい」

三人は屋外に出た。

アゼガミ「姫様の御前では申せぬことがあるようだな」

典夫「物資が不足しております」

アゼガミ「そうか」

スズシロ「綺麗な青空だ。」

アゼガミ「幼い頃を思い出す。」

スズシロ「私は記憶にもないです。こんな空が毎日見れるのか?」

典夫「曇ったり、雨が降ったりもします。」

スズシロ「雨は、嫌だな。」

典夫「きれいな雨ですよ。D-8世界よりは、はるかにきれいな雨です。」

三人はカフェに入店する。

アゼガミ「こんなうまいコーヒーが飲めるのか。」

スズシロ「素晴らしいわ。」

アゼガミ「いい世界だな。」

典夫「ところで補給部隊は、いつ来るんでしょう?」

アゼガミ「わからん。生きてここまで辿り着けるかどうかもわからん。」

典夫「モノリスがじきに底をつきます。そうなると、この世界の人間を兵隊に使うことができなくなり、我々は丸裸の状態になります。」

アゼガミ「お前がいるじゃないか。」

典夫「もちろんですが。僕一人の力で、皆さまをお守りできるかどうか…。」

アゼガミ「我々のことはいい。お前は王妃と姫のケアに全力を尽くせ。」

典夫「DRSのプログラムデータは?」

アゼガミ「わからん。」

典夫「あれがないと王妃は…。」

アゼガミ「わかってる。」

典夫「安楽死の必要があれば、いつでもご指示ください。伊達坂医師に処置していただきます。」

スズシロスズシロ「今言う話じゃないだろ?なんてデリカシーがないんだ。」

典夫「申し訳ありません。」

スズシロ「イライラするわ。あなた。」

典夫「すみません、ただのヒューマノイドです。お気になさらないで下さい。」

スズシロ「あなたが言わないの!」

典夫ことモノリオは人間ではなく、人造人間だったらしい。

アゼガミ「ところでモノリオ。ナギサ様のアイデンティカについて説明しろ。」

典夫「はい、彼は隣の606号室に住んでいます。名前は岩田広一。歳は17歳。ナギサ様と同じ年齢です。彼の両親の岩田亨、岩田君子とナギサ様のご両親とは何の共通性も見いだせないので突然変異タイプかと思われます。」

スズシロ「突然変異の発生源では、複数のミュータントが確認できる場合が多いはずだが。」

典夫「はい、実は岩田広一には妹がおりまして。7歳で亡くなっていますが、彼女は姫様のアイデンティカです。」

アゼガミ「ということは、この世界でナギサ様と姫様は兄妹ということか。」

スズシロ「兄妹?それでは、2人は、結婚できないのか?」
     
アゼガミ「法的根拠がある訳ではない。そもそもアイデンティカ同士の婚姻など、法律のどこにも書かれていないわけだから。過去の歴史を振り返ってみても、王家において近親婚は問題には当たらない。大事なのは家系の存続であって、種や卵は試験管の中でいかようにもなろうから。」

スズシロ「とりあえず結婚させてしまって、子供の種は後で適当に調合しろと?忌まわしい。なんという罰当たりなことを。」

アゼガミ「罰を当てる神もきっと既に死んだろう。残された我々の使命はただ一つ。王家の存続と国家の復興。」


典夫「補給部隊はいつ到着するのです?」

アゼガミ「わからん。来るとも来ないともわからん」

典夫「しかしモノリスのストックが底をつけば、皆さまをお守りすることに支障が生じます」

アゼガミ「我々のことはいい。王妃様とアスカ姫をいやアスカ姫をお守りすることがお前の絶対的な使命と心得よ」

典夫「心得ました」


その頃、江原老人は再び正気を取り戻し、部屋を脱走し隣室に飛び込む。

「どうしたの江原さん」と広一の母(濱田マリ)が応じる。

江原「いるんだ…たくさんいるあいつらがいる」

広一「幻覚だろう。僕が一緒に行って誰もいないと確認すれば落ちつくと思うよ」

広一は、江原老人とともに江原家に戻る。

しかし、そこには無数の人々が実在した。

広一「え」

江原「いるだろう」

広一「そんな」

江原「こいつらこいつら」

アステロイドたちは、江原老人を抑えつけ医師が背中越しに麻酔をかける。

広一の心にようやく恐怖が芽生える。

しかし、逃げようとした足がもつれ彼らに確保されてしまう。

何事です奴隷「こいつは誰だ」

冴木「岩田広一だ」

広一「冴木先輩助けてください」

冴木「どうする」

奴隷「逃がすわけにはいかないようです」

奴隷「眠らせよう」

広一「やめて助けて・・・殺さないでくれ!」

そこへ騒動を聞きつけたアスカが現れる。

アスカ「何事です…あっ!」

広一「ええっ?」

アスカは見た。恐らく異次元世界でアスカの婚約者であったと思われる王族の一人、ナギサにそっくりな広一を。

広一は見た。死んだ妹にそっくりなアスカを。

アスカ「ナギサ様から手を離しなさい」

アスカに命じられた奴隷たちは手を引く。広一は恐惶に駆られる。

幽霊広一「ゆ、ゆ・・・」

広一は無我夢中で江原家を飛び出し、岩田家に逃げ込む。

「どうしたの」と母、君子(濱田マリ)。

広一「ゆ、ゆうれいが…かあさんかあさん、ゆうれいがいた。かあさんかあさん」

君子「落ちつきなさいよ」

しかし震えが止まらない広一だった。その時、江原家に三人が戻ってくる。


典夫「何事だ」

解析冴木「江原が、またコントロールを失いました」

典夫「馬鹿な…リミットには、まだ余裕がある」

冴木「しかし」

典夫「そうか、解析します」

モノリオは、原因に気がつく。

典夫「モノリスのコントロールは効いているはずなんだが…。あの時だ。」

アゼガミ「どうした?」

典夫「昨日、鎌仲龍三郎という、この町のマフィアのボスをモノリスでコントロールしようとしたら拒絶されました。そればかりでなく、モノリスを乗っ取られそうになりました。おそらくあのときに、別のコマンドが裏から書き込まれたんだ。別のIDで書き込まれたファイルを見つけました。今、解析してます。」

アゼガミ「どういうことだ?」

典夫「我々と同水準の者が、この町にいるという事です。何者かはわかりませんが、少なくとも好意的ではない。敵かもしれません。」

スズシロ「敵?」

典夫「はい。今解析結果が出ました。完全にブロックされていて、中身が見えません。とりあえず、ファイルを削除します。誰の仕業かはわかりませんが、D-8から我々を追ってきた者の仕業であることは間違いありません。」

アゼガミ「敵か」

典夫「わかりません」

アゼガミ「とにかく状況を修正せよ」

典夫「わかりました」


アスカ「あの人は誰? ナギサにそっくりだったが…。」

スズシロ「ナギサ様のアイデンティカです。」

アスカ「アイデンティカ?私のアイデンティカも存在するのか?」

典夫「確認しました。彼の妹がそうでした。幼き頃に亡くなっています。」

アゼガミ「ともかくこうなった以上は、ナギサ様のアイデンティカをコントロールするしかない。」

アスカ「彼をコントロールしてはならぬ。」

スズシロ「しかし姫様…。」

アスカ「ならぬ!」

アゼガミ「承知しました。しかし…どうしたものか? 彼が我らのことを世間に言いふらしたら厄介です。」

アスカ「言わぬように頼めばよい。私がお願いしてみるから、彼をお呼びしなさい。」

典夫「直接会って話すというのは、いい手かもしれません。ただきっと彼は怖がっている。こちらから出向いた方がいいと思います。僕が江原とまいりましょう。いかがでしょうか? 皆さま。」

スズシロ「会ってどうする?」

では、また明日学校で典夫「なんとか説得いたします。」

アスカ「彼に任せよ。」


モノリオは、岩田家を訪れた。

君子「江原さんのお孫さんよ」

広一「・・・」

典夫「やあ、びっくりさせたみたいだね」

広一「・・・」

典夫「実は親戚にテレビ局の人間がいて部屋を借りたいと言うことで、今日はドラマを撮影していたんだ」

広一「ドラマ」

典夫「おじいちゃんはそのことをすっかり忘れていたみたいで」

広一「・・・」

典夫「とにかくおどかせてすまなかった。ではまた明日、学校で」

広一の母は笑う。

君子「まったく気が小さいんだから」

広一「でも幽霊が妹の幽霊が」

典夫「君の妹さん?そんな小さな子はいなかったと思うけれど」

広一は我に帰る。

そうだ確かに夢に出て来た妹の姿に似ていたが妹はもっと幼くして死んでいるのだった。

広一「・・・」

広一は不可解な気持ちを残したまま、微笑みを浮かべたモノリオを見送る。

広一「おかしいぞ。やはり変だぞ、あいつは変だ」

モノリオは隣室に戻る。

アゼガミ「調整できたのか」

典夫「ドラマの撮影ということにしておきました」

「ドラマ?」とアスカが質問する。

「姫様はドラマをご存じありませんか」とスズシロ。

「おいたわしや」とアゼガミ。

典夫「お目にかけましょう」

モノリオはアスカにドラマを見せた。

アスカ「なるほど芝居の記録のようなものか」

典夫「でございます。戦前にはD8世界でもこのようなものが作られていたのです」

アスカはドラマの中の光景に興味を示す。

アスカ「これはどこか」

典夫「学校の教室です」

アスカ「学校」

二人の侍従はそっと涙をぬぐう。

王家に生まれながら花もドラマも学校も知らぬアスカが憐れであったのだ。

「すべて戦争が悪いのです」とスズシロは呟いた。


【用語解説】
アイデンティカ・・・違う次元に、ある一定の確率で同じ人間が存在する。そうした者達の総称。アスカは広一の妹のアイデンティカであり、広一はアスカの許嫁のナギサのアイデンティカ。

D8世界・・・平行世界の中で、存在が確認されている次元のひとつ。アスカや王妃が住んでいた世界であり、プロメテウスの火によって滅んだ。

第七話終わり

なぞの転校生 #08

$
0
0

なぞの転校生 #08

王家の護衛官として調整されたヒューマノイド(人間タイプの人工生命体)のモノリオこと山沢典夫は王女アスカ姫の無聊を慰めるために東西山高校への登校を推奨する。

D-8世界では長く続いた戦乱のために王女は学校というものを体験したことがなかったのだ。
高貴な家柄に属するアスカ姫にとって庶民の通う学校そのものが異世界であり、例によってモノリスのマギ(高度な人格操作)によってコントロールされた寺岡理事長(斉木しげる)の転校生・九条アスカの超法規的転入手続きは在校生一同に違和感をもたらす。

大谷「今日は、転校生を紹介します」

典夫「ぼくの従妹の九条アスカです。皆さん宜しくお願いします。」

大谷「それでは、アスカさん自己紹介を」

と担任の大谷先生(京野ことみ)に指示されたアスカは、生徒一人一人に自己紹介を促すのだった。

大谷「ええっと…九条さん、自己紹介はあなたがするのよ?」

典夫「アスカさん、自己紹介をお願いします。」

アスカ「九条アスカです。宜しくお願い致します。」

そうして姫は長々と頭を垂れた。そしてまた生徒一人一人に自己紹介を促す。

大谷「それは休み時間にやってね。ええと席は…」

天衣無縫な王女は、教室最前列に用意された副担任用の補助席に自主的に腰かける。

大谷「いやそこじゃなくて。山沢君、この席を後ろに持って行ってくれるかな?ハイ、お願いします。」

腕組モノリオにエスコートされたアスカはモノリオと腕を組んだまま着席し、女子生徒の反感を買った。

そして岩田広一にさりげなく触れ、親愛の情を示すアスカだった。

なぜなら平行世界に存在しがちなアイデンティカは異世界にありながら同一な存在としてD-12世界の岩田広一はD-8世界ではアスカの婚約者・ナギサだったのである。遺伝子レベルでナギサにそっくりの岩田広一は、突然変異でナギサにシンクロしている存在である。

そしてアスカは岩田広一の亡き妹・岩田あすか(立川杏湖)のアイデンティカだったのである。

岩田広一は幼くして死んだ妹が成長した姿の夢を見るのだが、アスカは夢で見る妹にそっくりだった。

D-8世界 アスカの許嫁の王族ナギサ~アスカ姫
D-12世界 岩田広一~広一の妹あすか


一瞬で二人の間に生じた何かに勘づく香川みどり。異物に対する反感を募らす2年3組の生徒たち。アスカは我関せずで、授業中も自由な発言を展開する。

渡辺「このウェーブマシンの一端から波を送ると、波は他の端から反射して、戻ってくるんだね。このように1つの媒質中を進んできた波は媒質の端や、他の媒質との境界で反射する。」

アスカ「あの者は、何を説明しておる?」

典夫「波動についての初歩的な説明です。」

アスカ「説明などなくても、ここに式が書いてあるではないか。」

典夫「ここの者たちは、式を見ただけでは理解できないのです。」

アスカ「不便な者たちだ。」

源「この葛城の神こそ、さがしうしおきたれとむつかりて、物覗きの心も、冷めぬめりき。」

アスカ「そなたは源氏物語を読んだ事はあるのか?」

みどり「いいえ。」

アスカ「全文を読まずしてこんなわずかな一節だけを学習して、何か意味があるのか?」

みどり「今は源氏物語がどういうものかを習ってるの。」

アスカ「まずは読めばいい。そして興味があったら、自分の好きなようにあれこれ調べて、もっと楽しみたかったらまた読めばいいのだ。」

春日「そんな時間ないよ。私たち、受験のために勉強してるんだもん。受験が関係なかったら源氏物語なんて勉強しないし。」

源「こら! そこ静かに!」

昼休み中、昼食を取りながら典夫とアスカに対する悪口を聞いた二人は中庭を歩いていた。

アスカ「豚のようによく食べる。この世界はそんなに食料が余っているのか?」

典夫「世界的には、飢餓に苦しむ国も多くあります。」

アスカ「世界を学ぶべき場所がこれではな…。想像していたものとはだいぶ違った。見よ。この建物のありようを。まるで家畜を飼育する施設のようではないか。なんとも息苦しい。」

姫とモノリオ典夫「きっと、よいところもあるのでしょう。」

アスカ「よいところ?」

典夫「わかりませんが、ただ、皆楽しそうです。」

アスカ「いかなる環境であっても、子供達は楽しそうにしておるものだ。子供達は、戦場でも遊び場を見つけるものだ。」

典夫「はい。」

アスカ「うん。負け犬の遠吠えだな。」

典夫「はい?」

アスカ「我らの世界は滅んだのだ。我らが愚かであったがゆえに。なんとかうまくやっているこの世界の者たちを、我らが批判すること自体、愚の骨頂ではないのか。」

二人が教室に戻った瞬間、悪口が収まった。広一は二人にアドバイスをする。

広一「みんなで君たちのことシカトしてるんだよ。」

アスカ「シカト? なんだそれは?」

広一「無視してるんだ。まずいよ。このままだと君ら、このクラスで孤立しちゃう。誰も喋ってくれなくなるよ。」

アスカ「このクラスで孤立する…。それがどうした?人間はそもそも孤立した存在ではないか。それでいいのだ。ここに来る前にある程度の勉強もしたが、そなたらは同じコロニーの中で家族という単位で孤立して生きている。他人同士は会話をしないのがそなたらの社会であろう。そなたらもこのクラスで授業中に会話などしないだろう? それでいいのではないか?」

みどり「学校は友達をつくる場所だから。」

アスカ「友達とつくる場所。学校が?ここは勉強する場所ではないのか?」

みどり「それだけじゃないわ。」

アスカ「友達をつくる場所か。それは面白い。ならばなぜそなたたちは、私を無視したりして冷遇するのだ? 私はそなたらと友達になる必要はないが、そなたらの言っている事は矛盾だらけで意味不明だ。まぁよい、教師が来た。さぁ、教師よ。授業を始めよ。」


次の時間は音楽の授業で音楽室で歌っていたその時、典夫がモノリスに着信があったことを告げる。

典夫「今、D-8世界から生存信号がありました。」

アスカ「えっ?」

典夫「わずかな期待を込めて、王妃のDNAを修復データを探していたのです。今から迎えにいかないと。姫をお一人でここに置いてはいけない。一緒にお帰りいただけますか?」


頷くアスカ。授業を抜け出す二人に大谷先生は驚く。

大谷「ちょちょっと、あなたたちどこへ行くの」

典夫「祖母が危篤になり緊急手術が行われることになったのです」

大谷「・・・」

とまどうD-12世界の教師と生徒を残し、異邦人たちは去って行った。


香川みどりは混乱していた。せっかく花を届けて近づこうとしたモノリオの素っ気ない態度。

異様な関係を思わせるアスカの登場。心の平安を求めてみどりは、放課後のSF研究会部室を訪ねる。

みどり「ねえ、彼らは大丈夫かしら」

広一「大丈夫もなにも、あいつら変過ぎるだろう」

みどり「変」

広一「そうだよ。転校生の最初の言葉を覚えているか?この世界のことを勉強したいって言ったんだぜ」

みどり「それは転校してきたから」

広一「世界ってなんだよ?あいつら宇宙人かもしれない」

みどり「・・・」


広一「キャトルミューティレーションって知ってる?」

みどり「知らない。」

広一「1970年代に、アメリカで家畜が殺されて、血液や体の一部がなくなってるって事件が何度も起きたんだ。一部では宇宙人のしわざではないかって言われてる。時々思うんだよ。ニュースとか見てて。あまりにも殺人事件が多すぎる。もしかしたら俺たちの知らないところで、変なヤツがいろいろ来てるんじゃないかな?わかってんだよ。変なこと言ってんだろ? 俺。」

みどり「わかってるよ。私だって変なこと言った。山沢君は記憶喪失だって。」

広一「あまりにも変すぎるだろう、あいつら。」

みどり「でも、悪い人たちじゃないような気がするけど。帰ろっか。今みたいな話が聞きたかったの。UFOとか、そういうの。」

広一「何で? いくらでも話せるけど。ロズウェルって町知ってる?」

みどり「それは前に聞いた。」

広一「もう一つ変なこと言っていい?」

みどり「何?」

広一「前に夢の話したじゃん? 俺の妹の夢。」

みどり「ああ…。」

広一「そっくりなんだよ。あの子…九条アスカ。夢に出て来る妹に。」

みどり「え?」

顔を見合わせる幼馴染の二人だった。


D-8世界の侵略拠点となっている江原老人(ミッキー・カーチス)の部屋がある集合住宅の屋上にモノリオは待機している。やがて異次元回廊が開き、DRSプログラムの搬送者が到着する。

園田ツトム典夫「大丈夫か?」

ツトム「ゾーンを閉じろ。追手がくる。閉じるだけじゃダメだ。追尾される。フェイズを反転して、DE-DW13.5度方向のウェーブを減衰させろ!」
   「政府は、極秘で、遺伝子操作で天才的な頭脳を持った子供を量産していてね。オーファネージ18と呼ばれた、秘密組織だ。僕は、その最後の生き残りのメンバーだ。ありがとう。これ、DRSのファイル。」

典夫「ありがとう。」

ツトム「すべてオートでやってくれる。簡単だ。君の体めがけて来るから、同期させてやってくれ。君が端末になって、オペをする。」

典夫「わかった。」

ツトム「すまない。どうにも、歩くのが億劫なんだ。僕はここで待たせてもらう事はできないかい?」

典夫「わかった。何かあったら聞きにくるよ。」

ツトム「へぇ~。これがD-12世界か。空が綺麗だな。星も見えるのかい?」

搬送者は負傷しているようだった。モノリオは搬送者を屋上に残し拠点に戻った。

バイオアプリ、ヒューマノイド、マギ、そしてオーファネージ18D-8世界の文明はやや能力至上主義への傾きを感じさせる。マギに支配された現地医師の伊達坂(並樹史朗)が立ちあって王妃の手術が開始された。

オペ典夫「起動します。同期します。」

伊達坂「凄い! これがオペなのか。」

モノリオは多数のモノリスを使用して、DRSプログラムによる王妃の遺伝子再建手術を開始する。

アスカは疲労した身体を休めていた。

スズシロ「アスカ様お疲れですか」

アスカ「今日学校で私はこの世界のものたちを蔑んだ」

スズシロ「・・・」

アスカ「結局、負け惜しみだな」

スズシロ「・・・」

アスカ「この世界のものたちは低い能力しか持たぬのになんとか世界を維持している。それに比べて私たちは私たちの世界を滅亡させたのだから」

スズシロ「アスカ様、王妃様の手術は長引きそうです。お休みになられては」

アスカ「いや、私は隣の部屋の岩田広一に会ってくる」

スズシロ「・・・」

アスカ「この世界のナギサ様にな」

岩田家には広一の父・亨(高野浩幸)が帰宅していた。

付けっぱなしのテレビからは「なつかしのヒーロー特集」というバラエティーショーが流れている。

「超人バロム・1は友情のバロムクロスで変身するんですよ」

ドアのチャイムが鳴り、来訪者を妻の君子(濱田マリ)が招き入れる。

君子「広一お隣のお譲さんが訪ねてみえたわよ」

夫婦は息子に訪れた異性の訪問者に好奇心をかきたてられる。

広一は、両親にアスカを紹介した後で自分の部屋にアスカを招き入れた。

アスカ「これがあすかちゃん。」

広一「死んだのは、7歳の時だ。交通事故で。」

アスカアスカ「私に似てた?」

広一「えっ?」

広一「いや、どうだろう。似てたかな?」

アスカ「なんか似てる気がするなぁ。」

広一「でも、なんか不思議なんだけど。最近、妹の夢を見るんだ。夢の中の妹は、時々は当時のままの姿なんだけど。時々は、成長した姿で出てくるんだ。それが不思議なことに、君にそっくりなんだ。」

アスカ「へ~予知夢かな?」

広一「あんまり驚かないね。」

アスカ「私たち、運命の出会いだったりして。」

広一「さぁ、どうだろう? わかんないけど…。」

アスカ「私には、許嫁がいたの。ナギサっていうの。」

広一「許嫁?」

アスカ「でも、死んじゃった。」

広一「病気?」

アスカ「戦争。」

広一「戦争?」

アスカ「ゴリアドの紛争。知らないよね。」

広一「カナダの前にいたの?」

アスカ「カナダは嘘。ゴリアドにいたの。」

広一「ゴリアドってどこ?」

アスカ「どこだろう? JPの、ちょうどここらへん?」

広一「JP?」

アスカ「旧日本よ。」

広一「え? 旧?」

アスカ「冗談よ。SF好きなんでしょ? SF風に喋ってみました。」


「どうだ?」とオペの経過をモノリオに問うアゼガミ。

典夫「順調です。しかし・・・」

アゼガミ「なんだ」

典夫「王妃はどうして、このような酷い状態に?」

アゼガミ「プロメテウスの火をご覧になった。」

典夫「このようになるほどの距離で?その時、アゼガミ様とスズシロ様はどちらに?」

スズシロ「言うまでもない。ずっとおそばにいたさ。」

典夫「やはり。ではお二人も…。」

アゼガミ「我々のことはいい。王妃を何とか頼む。」

典夫「姫は…姫はその時どこに?」

スズシロ「姫もまた…。」

アゼガミ「だからこそ、このオペは何としてでも成功させなければならない。」

典夫「そんな大事なことをなぜ今まで黙っていたのですか!」

スズシロ「言う必要はない。あなたはただのヒューマノイドなのだから。」

典夫「ずっと申し上げておりました。モノリスのストックはもうほとんどないと。それにこのオペレーション。想像以上にモノリスの消耗が早い。補給部隊からの補充がなければ、姫のためのモノリスはもうこの地にはありません。」

アゼガミ「なんだと!?」

典夫「このオペは、姫のためにこそ行うべきものだったのではないのですか?今ここでやめれば、4つ分のモノリスを、姫のオペに使えます。ここでやめますか? ここまでで、王妃のDNAの80%以上は修復が完了しています。」

アゼガミ「そうだな。ではここでやめよう。」

典夫「DRSを停止します。」


モノリス「途中停止します。オペレーション端末のIDと、パスワードを入力してください。登録者のIDと、パスワードを入力してください。」

典夫「これは…彼か?すみません。屋上に、これをプログラムして運んでくれた園田ツトムという人物がいます。彼のパスワードとIDが必要です。」

モノリオから頼まれたスズシロは、屋上で待機している園田ツトムのところへ行く。

スズシロ「園田ツトムか?お前のIDとパスワードが必要だ。おい。園田くん・・・ 」

限界状態のままD-8世界から脱出した園田ツトムは死んでしまった。スズシロが優しく園田ツトムの瞳を閉ざした。スズシロは泣きながらオペ室に戻った。

スズシロ典夫「いかがされたのです」

スズシロ「衣類も探しましたが、見つかりませんでした。」

アゼガミ「彼自身のモノリスは?」

スズシロ「そのモノリスにアクセスする、IDとパスワードがわかりません。選択肢は、継続のみ。」

典夫「仕方ない。まずは王妃の治療を完成させましょう。」

アゼガミ「姫の命を救えないとは、なんという失態。」

典夫「オペを再開します。」

残り4つになったモノリスを前に王妃へのオペは再開された。有能なモノリオに比べて、人間である王家に忠実な侍従たちは無能だった。その頃、広一の家では・・・



アスカ「今夜この部屋に泊めていただけますか」

広一「ええっ」

アスカ「父方の祖母の手術に典夫がついているので、今晩はおじいさんと二人きりなの。とても心細くて怖い」

広一「ちょっと待って、親に聞いてみる」

事情を聞いた両親は、即答で承諾するのだった。

享「お前も一緒に寝るのか」

君子「あなた何言ってるんです」

享「冗談だよ」

広一「なに言っているんだ、変態親父」

のどかな両親に対して広一は不安を隠せなかった。部屋に戻るとアスカは目を閉じている。

広一はベッドを整える。

広一「泊っていいって」

その広一の手にアスカの手が重ねられる。

アスカ「もう少し一緒にいて。」

広一「え? あぁ…。」

アスカ「ホントによく似てる。ナギサに。」

広一「そうなんだ。」

アスカ「ナギサって呼んでいい?」

広一「あぁ…いいけど。」

アスカ「ナギサ…。」

D-12世界の夜は更けていく。みどりがモノリオが人間ではないことを知らないように、広一もアスカが余命いくばくもないことをまだ知らなかった。アスカ姫は核兵器の放射線によって遺伝子レベルで損傷し、内側から蝕まれている。

【用語解説】
オーファネージ18・・・D-8政府は、極秘裏に天才的な頭脳を持った子供を遺伝子操作で量産していた。その子供たちが暮らす施設、及び組織の名称。

DE-DW・・・次元移動をする際に方角を表す用語。Dimension East - Dimension Westの略。

JP・・・D-8世界での日本の呼称。アスカが広一に「JPは旧日本である」と説明した。

ゴリアド・・・D-8世界の王家があった場所で起こった戦争。この戦争でアスカの許嫁であるナギサが亡くなった。

第八話終わり

なぞの転校生 #09

$
0
0
なぞの転校生 #09

夢から目覚めたアスカは、導かれるように別室でパジャマ姿で執筆中の広一の父・亨(高野浩幸)を見つけた。

岩田享亨「あれ、起こしちゃった? うるさかったかな?」

アスカ「何、書いてるの?」

亨「宇宙の終わりについて。」

アスカ「宇宙の終わり?」

亨「そう。ビッグバンって知ってる?」

アスカ「うん。」

亨「実は、宇宙の膨張は、どんどん加速しているんだねえ。その宇宙を膨張させている力は、ダークエネルギーと言って、具体的にはそれが何なのか、まだはっきりしていないんだねえ。ビッグバンの形も、昔は、こう球体をイメージしていて。今ではちょうど、きのこのような姿ではないかと考えられるようになったんだねえ。そんな難しい話を、子供達向けに書かなきゃならない。」

アスカ「爆発を球で考えてイメージするのは間違ってないと思う。この世界だけを見るときのこの様な形をしているけど、その世界が無数に連続して、フィボナッチ数列のような規則性で並んでいるとしたらどう? ヒマワリの種のように、隣り合せにみっちり並んだ世界が、押し合いへし合いしながら膨張し続けているとしたら?きのこのように歪んだ姿になるのも説明がつかない?」

亨「パラレルワールドか。君、凄いね!さすが、広一のガールフレンドだけのことはある。」

アスカ「えっ?」

亨「しかし君はまるで世界がそうであると知っているような」

その時、深夜にも関わらずドア・チャイムが鳴る。

亨「なんだろう」

来訪者はモノリオだった。

亨「君は」

典夫「隣の山沢典夫です。広一くんを呼んでもらえますか」

アスカ「ノリオ」

典夫「アスカ、お祖母様が目覚められるのです」

アスカ「そうか」

亨「君たちのお祖母さんの手術は成功したんだね」

典夫「はい」

亨「それはよかった。広一を起こそうか」

典夫「いえ結構です。従妹をお世話いただきありがとうございました」

亨「いやいつでも遊びにきてください。アスカちゃんまた話をしようね」

アスカ「お世話になりました」

典夫「ではこれで」

二人が去った時、起き出した妻の君子(濱田マリ)と亨は顔を見合わす。その時、広一が寝言を漏らす。

広一「あすか」

君子「まあ」

広一「みどり」

君子「どんな夢を見ているのかしらね」

二人は息子の寝顔を見ながら微笑むのだった。

JP@D-12帝国建国宣誓隣室の江原正三(ミッキーカーチス)の部屋では、目覚めた王妃(りりィ)が孫のアスカ姫と再会を果たしていた。ただちに建国宣言の儀式が行われる。そのためには王妃の目覚めが必要だったらしい。王妃が、何やら紙に署名を済ませた。

アゼガミ「ここにJP@D-12帝国、建国宣誓を宣言する。」

立ち会ったのはアスカ姫と侍従のススジロ(佐藤乃莉)そしてヒューマノイドのモノリオD12世界で徴用されたマギ(モノリスによる知的制御)のレイパー(使用人)・江原老人や医師たちと坂井銀次(金山一彦)をはじめとするアステロイド(強制洗脳装置)を首筋に付けられた数人のレイパーたちだった。

典夫しかし、そこにアステロイドの冴木(碓井将大)がいないことに不審を感じる典夫。その表情をアスカが見出す。

アスカ「どうした」

典夫「臣下の一人、サエキがオンラインにならないのです」

アスカ「期限切れではないのか」

典夫「そうかもしれませんが予測よりは早いので」

アスカ「アステロイドの効力には個人差が生じるからな」

典夫「仰せの如くです」

冴木操られるしかし冴木は、ある廃墟で謎の人物と邂逅していた。

その人物は、明らかにD12世界の人間ではないことを窺わせる怪しい赤い発光現象を伴っていた。

怪人物の目は赤く光り、冴木の目もそれに反応する。

ハーデス「お前は悪い子だ。本当に悪い子だ。」

冴木「ごめんなさい。ごめんなさい…。謝って済む問題ではないけど、謝れる限り謝ります。ごめんなさい。ごめんなさい。」

ハーデス「悪い子がどうした? 善人のフリなんかして。それはいけないな。」

冴木「善人のフリなんかしてごめんなさい。いけないことしてごめんなさい。謝って済む問題ではないけど、謝れる限り謝ります。ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

ハーデス「謝れば、何でも済むと思ってるな。悪いことして謝って、悪いことして謝って、謝るのはもうやめなさい! お前は悪い子だ。それでいいんだ。お前は悪い子なんだ。」

怪人物は、アステロイドに介入し冴木を再改造していたのだった。

翌日、岩田家にモノリオとアスカが訪問する。

「今日、ボクには所要があるよかったらアスカに付き添ってくれないか」

「それは構わないけど」

「よろしく頼む」

広一はモノリオから日傘を託されるのだった。

「アスカには紫外線が毒なので」

「さして」

仕方なく広一はアスカに傘をさしかけるのだった。

二人は高貴なものと召使のように田園風景の通学路を歩んでいく。

広一「山沢と君はいとこ同士なんだろ?何であんなに主従関係がはっきりしてるの?」

傘アスカ「おかしいか?」

広一「おかしいっていうか、変わってる。」

アスカ「前世を信じるか?」

広一「前世?」

アスカ「リインカーネーション?」

広一「あぁ…あんまりかな。」

アスカ「前世で彼は私のしもべだったのだ。」

広一「嘘!」

アスカ「たわけ。冗談だ。」

学校に着いた二人。だが、アスカの上履きが見当たらない。

アスカ「上履きがどこにあるか分らぬ」

広一「え?」

アスカ「靴をふき清めればよかろう」

広一「・・・」

アスカ「ふいて」

広一「えええ」

仕方なくティッシュ・ペーパーでアスカの靴底をぬぐう広一。二人をみどりが見ていた。

みどり「どうしたの」

広一「山沢に頼まれた。あの子にはまいるよ」

アスカ「広一」と呼ばれ傅く幼馴染に胡乱な視線をそそぐみどりだった。

みどりにもようやく事態がただのロマンチックな出来事にすぎないと言いきれないことが薄々分かり始めていた。


江原家では、王妃が食事中だった。

王妃「これは何と言う料理か」

銀次「こちらは親子丼と言いまして、子の卵と親の鶏肉を合わせたものです」

王妃「「母親と子供が混ざっておるのか。 うっ!悪趣味だ!このようなものは、妾の口にあわぬ」

銀次「申し訳ありません」

親子丼を食べず嫌いする王妃だった。どうやら帝国の上位に位置するものは無能で気位だけが高いようだ。

D8世界の滅亡の原因は洗練されていない階級社会における階級闘争の激化なのではないかと思わせるものがある。喫茶店でモノリオと善後策を検討するアゼガミとスズシロにもその傾向がある。

典夫「アステロイドの在庫は既になく、追加で兵隊を確保できません。モノリスの追加もない以上は、今後は地道に人民を集めていくしかないものと思われます。」

希望?笑わせるな!スズシロ「もう…姫はもう、助からんということか?」

典夫「いいえ。希望は捨てたくありません。」

アゼガミ「希望? ハハハハハ…。笑わせるな!ヒューマノイドのくせにそんな言葉を軽々しく吐くでない。」

典夫「申し訳ございません。」

スズシロ「モノリスのせいで、D-8世界は滅んだというのに、私たちは今、そのモノリスを失っていく恐怖を感じているのね。」


授業は終わり、下校の時間になっていた。その時、雨が空から落ちてくる。

アスカ「雨だ。これでは帰れない。」

広一「どうして?」

アスカ「皆はどうして雨の中を帰れるのだ?(モノリスを出して雨について調べた)お~これは驚いた。」

広一「どうした?」

アスカ「この雨はきれいなのか。」

広一「傘ぐらいさせよ。もうわけわかんないよ、君。」

アスカ「ささなくてよい。」

アスカ「余計なことはするな。私は今、雨を楽しんでいるのだ。」

広一「だって、風邪ひいちゃうじゃん。」

アスカ「クチャン」

広一「ほら~。」


とにかく二人は雨に濡れて帰宅した。

広一「それじゃこれで」

アスカ「待て、濡れたままではないか」

広一「だから言ったじゃないか」

アスカ「私は濡れたまま。どうにかせよ。」

広一「はぁ?」

アスカ「はぁ?じゃなくてハッ!」

広一「ハッ!ってこれ奴隷じゃん・・・」

仕方なくアスカを家に招き、風呂に入れる広一だった。広一の中でアスカは妹の生まれかわりだった。しかし同級生でもあった。それゆえ更衣スペースで脱衣し始めたアスカに慄くチェリーボーイの広一だった。

アスカ「なぜ出ていくのか」

広一「いや無理だから。湯船に湯がたまるまでシャワーを使えばいいよ」

アスカ「使い方が分らぬ」

広一「シャワーのない世界ってどんな世界なんだよ」

広一は、母親の衣服を物色した。

広一「まさか、母親の下着を物色することになるとは…。姫、替えの衣類をここに置いておきます」

アスカ「狭い風呂じゃが、これは極楽じゃな」

アスカは入浴を味わった。

アスカ「水源が汚染されていないというのは贅沢の極みじゃ」

アスカは自分の裸身を眺めた。教養にあふれたアスカが自分の内に潜む障害に気がついていないはずはなかった。その視線には余命を図る意図が示されている。入浴を終えたアスカは一度、江原の部屋に戻る。そこでは拠点の確保について話し合いが行われていた。

「私たちが働いてもう少し広い部屋をご用意します」と進言するアステロイドの坂井。

しかしアゼガミとスズシロの顔には、軽侮の表情が浮かぶ。

アゼガミ「お前たちの稼ぐ金で王宮が築けるものか」

スズシロ「アゼガミ様、あまり無理を申されても」

そこでスズシロはアスカの帰宅に気がつく。

スズシロ「これはアスカ様、本日のご夕食は何時にいたしましょうか」

アスカ「よい夕食は広一の家でとるそれよりモノリオ、ともに参れ」

典夫「どちらに」

アスカ「広一の家じゃ」

モノリオとアスカが広一の家を訪問すると同時に江原家には冴木が来襲していた。

そうとは知らずに食後の団欒を岩田親子と過ごす二人。アスカは不思議な物質を披露する。

広一「アスカが昔、山登りした時に見つけた石なんだって。」

亨「いやあ…こんな石、見たことない。」

君子「何が珍しいの?」

亨「え? いや、重さがないんだよ。だから、ほら。」

マルスの結晶君子「石じゃ、ないでしょう。」

亨「いや…。硬さ的には、ちょっとした、宝石並みだよ。ちゃんと調べてみないと、何とも言えないが…。あ~!カーボンナノチューブの類なのか…。」

アスカ「おもしろいでしょ?」

亨「それ、ちょっと預からしてくれないかな?」

アスカ「ダメです。私の宝物なんだから。」

君子「ごめんなさいね。こういうの見ると、子供みたいになっちゃうのよ。」

広一「それにしても不思議な石だよな。」

アスカ「広一もこれが欲しいか?」

広一「いやいや…君の宝物をもらうわけにはいかないよ。」

アスカ「私と結婚してくれたらお前にこれを託してもよい。フフフッ…典夫、見たか? この者たちの顔を。フフッ。」

広一「やめてくれよ、そんな冗談。」

君子「でも、アスカちゃんみたいな可愛い子がお嫁さんになってくれるんだったら、私は嬉しいな。」

亨「そうだな。この石がもらえるんだったら、結婚してほしいな。」

広一「え? そこ?」

亨「え?」

典夫「・・・アスカ、そろそろおいとましましょう」

岩田家を辞したアスカに意見をするモノリオだった。

典夫「なぜあのようなことを?」

アスカ「彼が科学に詳しいというから。彼らの文明のレベルを見てみたかったのだ。」

典夫「マルスの結晶を、この地の者に見せてはなりません。」

アスカ「案ずるな。私たちですら、マルスの発見から現在まで200年もかかったのだ。見たであろう? 重さがないと驚いていた。重さがないのではないということに気づくまでに50年はかかる。」

典夫「ともかく、接触は厳禁です。」

アスカ「モノリオ。私に命令するな。」


しかし江原家では、非常事態が起っていた。

典夫「これは…」

「冴木が襲ってきた」と腹部を押さえるアゼガミ。

典夫「王妃様は」

アゼガミ「ご無事だ」

アスカ「おばあさま」

アゼガミ「しかしスズシロが冴木に拉致された」

典夫「スズシロ様が」

アゼガミ「やはりあの者は、モノリオが言ったように何者かにコントロールされたようだ」

典夫「・・・」

アゼガミ「追え!」

モノリオは追跡を開始した。

マルスとは戦争の神アレスの別名である。その成果であるモノリスは、最初から忌むべき神の名を与えられていたのだった。

モノリオは、アステロイドの残す痕跡を追尾する。廃墟で冴木は、失神したスズシロに語りかけていた。

失神したスズシロ冴木「この女ムカツクな~!まるで小学校2年生の担任の三枝愛子先生のようで、ムカツク。三枝愛子先生はいつも僕のことを優しいまなざしで見つめてくれた。そして僕のことをとても優しい心の持ち主だと言ってくれた。その心をいつまでも大切に持っていなさいと。でも僕はそんないい子じゃなかった。

虫を捕まえては片っ端から殺していたよ。カブトムシの角は折るためにあったし、バッタの太い脚は、もぐためにあった。ある日、三枝愛子先生は僕の両親のことをみんなの前でこう言ったんだ。冴木君のご両親は、とても優しそうな素敵な方でしたよ、と。それは嘘だ。母を殴るのに何のためらいもない父と、そんな父の悪口を近所のおばさんに告げ口するのをはばからないような母だった。その時僕は子供ながらに思ってしまった。この人は現実の世界が本当はもっと残酷で寒々としたものなのに、そこから目を背けて子供が砂場でおままごと遊びでもするかのようにこの世界を見ているだけなのだと。でもそれは間違っていない。そんな風に見られたら、どんなに素晴らしいだろう。三枝愛子先生は身をもって僕にあることを教えてくれたんだ。世界は自分が決めればいいってね。自分が思い込んだ世界こそが自分の世界であって、それは他人に決めさせるものではないんだ。僕に手足をもがれた虫は、言葉を喋れたら、僕に、ありがとうと呼びかけるかもしれないじゃないか。」

典夫「君は悪い子じゃない。三枝愛子先生は間違ってないよ。」

冴木「三枝愛子先生は間違っていないよ。だから僕は彼女が教えてくれたように生きる。」

典夫「幼少期のトラウマが噴き出している。先生は間違ってない。君は本当に、優しい心の持ち主なんだ。ただ、それを表現できるか歪んでしまうかは、また別の問題なんだ。」

冴木「アハハハハハ…。イライラするなぁ。ちょっと違うんだけど。僕の言ってることと。」

冴木は、人間以上の速度でモノリオにつかみかかった。片手でモノリオをつるしあげる。

冴木とモノリオ冴木「どうだ、俺の力も捨てたものじゃないだろう?それともお前が弱いのか?」

典夫「誰が君にその力を与えたのだ」

冴木「これが本当の俺だってことだよ」

冴木はモノリオを放り投げ、モノリオは飛ばされて床に激突する。

冴木「はははお前は、その程度じゃくたばるまい」

モノリオは、ゆっくりと起きあがる。

冴木「しかしこれはどうかな」

冴木は腕から赤い光を放ちはじめる。

「それは」初めて表情を変えるモノリオ。

冴木「俺の本当の力を」

しかし、そこで冴木は倒れ伏す。

典夫「本当にアステロイドの限界が来たのか」

モノリオはつぶやく。

典夫「こんなことができるのは政府軍の工作部隊の残党か」

天井から様子を窺っていた怪人物は、撤退を開始していた。

ハーデス「くそ!惜しい所で…しかしモノリスも不足しているし結局、自分で手を下さなくてはならぬのか」

そこで怪人物は吐血する。

ハーデス「ふ、しかもタイムリミットは近い」

D12世界にD8世界の戦乱が飛び火したらしい。

【用語解説】
マルス・・・D-1にどこからかもたらされたとされているが、その起源は詳しくは分かっていない。生物であり鉱物。固体であり液体。動物と植物の特性を併せ持つ、人間より高い知能を持つ物質。レアメタルのようであるが、ゆっくりではあるが増殖し、分裂する。更には反重力を持ち、自ら移動する。重さがないように見えるのはこのためである。しかも、時空間移動する物質であり、エネルギーを生み出す。D-8世界では、マルスの発見から約200年でマルスは人類の中心的エネルギーとなった。

フィボナッチ数列・・・自然界に多く見られる数列で、その例として
1:「花の花弁の枚数が3枚、5枚、8枚、13枚のものが多い」
2:「ひまわりの種の並びは螺旋状に21個、34個、55個、89個・・・となっている」
3:「植物の枝や葉が螺旋状に生えていくとき、隣り合う2つの葉のつくる角度は円の周を黄金比に分割する角度である」などがある。
パイナップルや松ぼっくりの配列がフィボナッチ数列となる。

第九話終わり

なぞの転校生 #10

$
0
0

なぞの転校生 #10

D-8世界では絶対的な能力を持っているモノリオを保持しているだけで、どのような困難も克服できると思われる。だが王家の王族である王妃(りりィ)は要求を口にするだけ、王家の侍従であるアゼガミとスズシロは、それを実現する能力を臣下組織なくしては持たなかった。

江原邸では、D-8世界の移住者が善後策を検討していた。江原は、モノリスの節電で認知症の老人に戻っていた。

典夫「昨夜、最初のレイバーに移植したアステロイドが死にました。アステロイドを埋め込んだ他のレイバー達もいずれは・・・」

江原「(アゼガミへ)おいおい、勝手に俺の酒なんか飲むんじゃないよ。俺の大事な芋焼酎なんだから」

アゼガミ「アステロイドはあと、どの位残っている?」

典夫「ストックはもうありません。」

アゼガミ「モノリスは」

典夫「240ギガクラークです」

アゼガミ「ギガ…テラではなくギガ。ゾーン1回を開くのに掛かる容量は?」

典夫「100ギガです」

アゼガミ「僅か2回…」

スズシロ「こんな状態ではもう…」

王妃「モノリスを、この世界で作ることは出来ないのか? モノリスが出来れば、DRSを姫にも使えるのであろう?」

スズシロ「王妃様、それは、モノリスの知恵をこの地に宿すという意味でしょうか?」

王妃「やむを得ん。アスカは、我々の、唯一の希望。黙って死なせるわけにはいかぬわ。」

スズシロ「失礼ながら、聞き捨てならないご発言です。」

アゼガミ「スズシロ。」

スズシロ「正気の沙汰とは思えない。モノリスのせいで、D-8世界は滅んだのです。探査船コロンブスがモノリスを発掘しなければ、我々は次元旅行も出来なかったし、プロメテウスも誕生しなかったのです。」

アゼガミ「スズシロ!」

王妃「何を図に乗っておる! こんな状況ゆえ、そなたはそこにおられるが、本来なら、すぐさま護衛隊に取り押さえられて、その場で銃殺だ!」

正三「やめろ。喧嘩はやめろ。俺んちで喧嘩すんな。俺んちで喧嘩やめろ。」

スズシロを扇子で叩こうとする王妃にアゼガミが抵抗する。

スズシロ「アゼガミ様!」

アゼガミ「図に乗るなとはお前のことだ、王妃。生き残ったわずかこの人数で我々に何ができるのだ? 我々はあのプロメテウスの火を見ながらここまで逃げてきたのだ。DRSはお前の遺伝子をことごとく修復した。あと100年でも生きられるだろう。だが姫も、俺達も、せいぜいもってあとひと月の命だ。見知らぬ世界で人知れず、もう死んでいくことしか出来んのだ。」「クソッ! こんなガラクタばかりを運ばせやがって。トランク2つ分のモノリスを運び込めたら、DRSで20人の遺伝子回復手術が出来たのだ!うぉ~っ! うぉ~っ!」

王妃「モノリオ。あの者を取り押さえよ!人間は、最後はこれだから浅ましい。我ら王家は、2000年も続く家柄。聖書の時代からあるのだ。そなたらにとって、我らは、神だ!」

アゼガミ「何が神だ。誰もが知っておるぞ!モノリスで王をコントロールし、国を我が物とした女ギツネめ! あんたが王に取り入るために雇ったスパイを覚えているか? そのスパイは王を追い詰め陥れ、卑しき娼婦を王妃に据えた! そのスパイは出世して大臣にまで上り詰めた。我が父だ。くだらない! 見事なくらい何もかもがくだらない!」

王妃「人間は、こうも脆いものなのか。正気なのはモノリオ、そなただけだ。」

スズシロ「モノリオには、意思も感情もないのですから。あなたが望む国の民達がそのようなものでいいなら、私はそんな国、絶対に認めない!」

アゼガミ「こんなババアに貴重なモノリスをあらかた使っちまったな。もうダメだ。俺たちはおしまいだ。」

典夫「皆さん、落ち着きましょう。我々がここで口論していてもらちが明かない。」

スズシロ「むかつくロボットね。」

アゼガミ「行こう、スズシロ。」

スズシロ「行こうって、どこに?」

アゼガミ「宿に泊まり、酒を買うくらいの金はある。モノリオ。そなたは生涯この王家を守って生きよ。おっと…生きてはいないな。お前は生き物じゃない。海の水さえあればいつまででも動いていられるマグネシウムロボットだ。人類が滅んでも、こいつらだけはずっと動き回ってるのだ。気味が悪い。」

謝れる限りは謝るよ場面が変わり、学校の廊下でアステロイド使用によりすっかり人格が変わってしまった冴木と、それでも一緒に行動を共にする咲和子が典夫に声をかけた。

冴木「やあ!この間は悪いことをしたね。謝っても謝り足りないけど、謝れる限りは謝るよ。本当にごめんなさい。」

咲和子「やめろよ、こんなところで」

冴木「君にも悪いことをしたよ。謝っても謝り足りないけど、謝れる限りは謝るよ。本当にごめんなさい。」


吹奏楽部で部活中の香川みどり(桜井美南)は、モノリオの姿を認めて胸をときめかせる。

しかし、アスカはモノリオに席を外させるのだった。

みどり「あなたと彼は従兄妹同志だと言うけれど、凄く仲がいいのね」

アスカ「あの者は私を子供扱いするのじゃ。道具としては遊びが不足しておる」

みどり「道具・・・?」


アスカ「典夫は私の道具だ。いつもそばにいて、私を守ることが彼の使命だ。」

みどり「道具? 何かすごい関係ね。あなたたち…。」

アスカ「そなたと広一はどういう関係なのだ?」

みどり「えっ? ムー君と私?」

アスカ「そなたらも仲がよいではないか。」

みどり「まぁ、幼なじみってやつかな。親も仲がよかったから。しょっちゅうお互いの家に泊まりに行ったりしてたしね。小さいころは、一緒にお風呂とかも入ったことあったな。」

私も典夫と風呂に入るアスカ「風呂か。私も典夫と風呂に入る。」

みどり「えっ…風呂に入る?今は違うでしょ?」

アスカ「いや、今もだ。今朝も彼に、体を洗ってもらったが。」

みどり「えっ!?」

アスカ「突然なにごとだ?」

みどり「えっ、体を洗ってもらったの?」

アスカ「驚くにはあたらない。彼は私の道具なのだから。」

みどり「関係が大人すぎる。あり得ない。」

アスカ「みどりと広一は、付き合っているのか?」

みどり「幼なじみだから、恋愛には発展しないの。」

アスカ「ならば、広一を私の許嫁としてもらってもいいのだな?」

みどり「ちょちょ…何何? 今何て?」

アスカ「広一を私の夫にどうかと考えている。」

みどり「だって、あなたと彼、会ったばっかりでしょ?」

アスカ「会ったばっかりだ。それがどうした?」

みどり「まあ、何にせよ、ムー君と私は付き合ってるわけでも何でもないから。」

アスカ「そなたは学校は、友だちを作る場所だと言った。あの言葉が気になっていた。もしかしたら私は、そなたと友達というものになりたいのかもしれないな。」

みどり「えっ?」

アスカ「明日は祝日であったな?」

みどり「そうね。」

アスカ「皆と一緒に遊びに行かぬか? うちのワガママな祖母が、外に出たがっておる。」

みどり「えっ、おばあちゃんって、ご病気じゃなかったの?」

アスカ「だいぶ良くなった。」

帰り道、花屋でみどりから花を贈られたアスカは御満悦だった。

アスカ「友情の証じゃな」

典夫「アスカ様、ご機嫌麗しゅうございますね」

アスカ「うむ、妾は幸福を感じている・・・」

モノリオは、奉仕者としての擬似的な喜びを感じた。

スズシロが不在のために髪をモノリオにまかせたアスカは、障害による脱毛を感じる。

アスカ「スズシロの方が上手じゃな・・・モノリオの応用力にも限度があるか」

典夫「精進いたします」

アスカ「それより、明日のことを広一に交渉してまいれ」

典夫「承知しました」

モノリオは、広一に祝日の散歩への同行を求めた。

「アスカちゃんも一緒に?」と一応確認する広一だった。

広一にとってそれは、ダブルデートだったからである。


D12世界の穏やかな祝日。王妃を車椅子に乗せて一行は公園に向かう。

みどり「皆さん、紫外線に弱いのね。山沢君は平気なの?」

アスカ「こやつは、宇宙空間で太陽フレアを浴びても平気だ。」

みどり「太陽フレア?」

広一「太陽フレアは太陽の爆発で、宇宙空間で宇宙飛行士が浴びると死んでしまうこともあるんだ。」

みどり「そうなんだ。」

アスカは、みどりにだけ聴こえる声で耳打ちした。

アスカ「そなたに1つだけ言っておきたいことがある。」

みどり「いいけど…。1つだけ私もお願いしたいことがある。」

アスカ「何だ?」

みどり「そのそなたっていう言い方、やめにしない?」

アスカ「では、みどりと呼べばいいのか?」

みどり「うん。私の名前覚えてたんだね。」

アスカ「覚えておるわ。」

みどり「フフッ…ごめんなさい。1つだけ言っておきたいことって?」

アスカ「典夫を好きになってはならない。」

みどり「えっ? 私、別にそんな…。」

アスカ「隠さなくてもよい。顔に書いてある。それで幼なじみとの関係にもヒビが入ったというところか。」

みどり「なんか、案外よく見てるのね。」

アスカ「人の心のあやを読み取れなくては、生きていけぬ立場ゆえにな。」

アスカは、シャボン玉に興じる母子連れを目に留める。

アスカ「あれは何だ?」

みどり「シャボン玉。やったことないの?」

アスカ「ない。」

アスカ「おお。たくさんの玉が出ておる。」

広一「九条さんて物知りなのに、変なとこ知らないよね。」

アスカ「そんなに有名なものなのか?やってみたい!」

広一「売店に売ってたかな? ちょっと買ってくるよ。」

やさしく吹くのアスカ「なぜだ?」

みどり「やさしく吹くの。思いきり吹いちゃダメ。」

アスカ「やさしく?」

アスカ「あっ!」

みどり「フフフッ…。」

アスカ「なぜ笑っておる?」

みどり「だって、真剣に見てたから。」

アスカ「不思議なものだ。広一もみどりもどんどん作れ。」

みどり「山沢君は? やらないの?」

アスカ「無理だ。こいつは呼吸ができぬ。」

広一「呼吸ができない? いくら山沢が変わっててもさ、呼吸ができないんじゃこいつロボットかよ?」

アスカ「そうだが? 言ってなかったか? こいつはロボットだ。正式名称はサイファ・バージョン3.2。マグネシウムを動力源にしたヒューマノイドだ。」

みどり「アスカさん。絶対SF研究会に入って正解!」

アスカ「何でそんなに笑うのだ?」

私とそなたが夫婦♪風が吹いてる 
 空が笑ってる もう少し歩こうよ
♪丘の向こうまで 歌が聴こえる
 一緒に歌おうよ
 君の後ろを歩きながら

♪君の背中を 追いかけながら
 同じような日は 幾度でもあるけど
 その日というのは 一つしかない
 当たり前に過ぎた 気にもせず生きた
 思い出すと 涙溢れてくる
 君の笑顔に 救われながら
 風が吹いてる 空が笑ってる

「風が吹いてる」(ヘクとパスカル)

この世界では夫婦その頃、さすらいの侍従たちはD12世界のアイデンティカと遭遇していた。

D12世界のアゼガミとスズシロは、仲の良い夫婦だった。

アゼガミ「驚いたな。この世界じゃ、私とそなたが夫婦だとは…。」

スズシロ「想像したこともありませんでした。」

アゼガミ「私もだ。」

スズシロ「幸せそうでした。」


のどかな昼下がり・・・暗殺者は間隙をぬって王妃に接近した。

ハーデスハーデス「いい天気ですねえ。」

王妃「そうですねえ。」

ハーデス「お孫さんですか?」

王妃「ええ。」

ハーデス「いい天気だ。」

王妃「イッツ ア ビューティフルデイねえ。」

ハーデス「さっきそこの金物屋で包丁を買いまして。うまく切れるかなあ、これが。本来なら、プラズマサーベルで首をはねるのがしきたりですが、この世界にそんな物はございません。ご無礼を、お許し下さい。」

・・・暗殺者は王妃を刺した。


アゼガミとスズシロのアイデンティカには驚かされた。この世界で2人は夫婦で幸せそうだ。その夫婦の対極にいるアゼガミとスズシロの姿が非常に切ない。幸せと不幸せがこの瞬間、同居していた。

単なる道具、ロボットと言われ続ける典夫の存在が妙に痛々しい。無機質な表情の向こうに透明な哀しみが見え隠れするような、本郷奏多の演技に引き込まれる。

前回の予告で王妃が刺される場面が際立っていたのでどこでやるかと思っていたら、番組の一番最後で行われた。刺されることばかり気になって見ていた。

【用語解説】
ゾーン・・・平行世界間を移動する際に入り口/出口となる、時空の裂け目。ゾーンを開くにはモノリスが必要で、一度にかかる容量は100ギガクラーク。異なる世界同士を繋ぐゾーンの設定は非常に難易度が高く、失敗すれば旅行者は消滅する。

サイファ・バージョン3.2・・・マグネシウム電池によって動くヒューマノイドの型のバージョン。典夫は、このバージョンのヒューマノイド。

第十話終わり

なぞの転校生 #11

$
0
0

なぞの転校生 #11

昼下がりの公園で暗殺者(翁華栄)は王妃(りりィ)を刃物で刺す。

「あのものを逃がすな!アスカを守れ」と苦悶しつつ王妃はモノリオ(本郷奏多)に命じる。

モノリオは暗殺者を追跡し、その後を広一(中村蒼)とみどり(桜井美南)が追う。モノリオは追跡者を追い詰める。

ハーデス死ハーデス「俺は、戦わないよ。生身の人間がヒューマノイドと戦って、勝てるわけないだろう。これでやっと辛い思いから解放される。ありがとうよ。」

暗殺者は、モノリスによる自決を行った。

モノリスは異次元回廊の出入り口を開くことができるが、同調していない異次元に飛び込めば物理的存在は消滅する。霊魂を含めた全存在がどうなるのかは不明らしい。広一とみどりは見てはならぬものを見た。しかし、心優しい二人の高校生は瀕死の王妃を見捨てることはできなかった。

王妃は、仮の王宮である江原家の帰還を求めた。

「なんとかせよ」とアスカ(杉咲花)はモノリオに命じる。

典夫「レイバーがオンラインになりません」

アスカ「モノリオ、おばあさまを助けてくれ」

典夫「現地の医療機関を使います」

アスカ「しかし」

典夫「モノリスのマギで、なんとか秘密を保持します」

アスカ「そうか頼む」

いよいよモノリスのエネルギー残量は少ないらしい。

王宮には、江原老人(ミッキー・カーチス)の姿しか見えない。

ワケが分からなくなった広一は、アスカに説明を求めた。

広一「何なんだよ、一体。説明してくれよ。」

アスカ「誰にも言わないで。お願いだから、秘密にしておいて。その代わり、何があったのか全部話すから。私たちがどこから来たのか。一体何があったのか。」

広一「わかった。わかったよ。話はあとで聞くから。落ち着いて、アスカ。泣くなよ、アスカ。ほら、今はやるべきことをやろう。」

電話で救急車を呼んでいたモノリオが戻ってきた。

典夫「姫様。」

アスカ「救急車は?」

典夫「王妃様が、どうしても呼んではならぬと。」

アスカ「そんな…。」

広一は、廊下に広がる王妃の血痕を見て気が動転する。

広一「とにかくこれをふきとらないと…いや、拭き取っちゃまずいか」

「タオルがいるわね」と広一よりも冷静なみどり。

しかし、バスルームでみどりは悲鳴を上げる。

バスタプでは、アゼガミ(中野裕太)とスズシロ(佐藤乃莉)が抱き合ったまま絶命していた。

おそらく絶望して心中したものと思われる。


王妃典夫「お2人に、王妃様からお話があるそうです。」

王妃「アスカ、モノリスを貸してちょうだい。2人には、これが何に見える?」

広一「初めて見た時は、スマホだと思ったけど…。」

みどり「石?」

王妃「モノリスは…。(ゴホンゴホン…)説明してあげて。」

典夫「モノリスは、君たちの使っている携帯端末のようなものだが、その能力は、君たちの想像をはるかに超えているかもしれない。君たちの携帯端末は、電話から進化したそうだが。携帯電話もなかった時代に、電話がそのような進化をするなんて、誰も想像できなかっただろう。と言えば、少しは理解しやすいのかもしれない。モノリスの場合、その進化は電話からではなく、マルスから始まった。」

広一「マルスって何?」

典夫「生物であり鉱物、液体であり固体。動物と植物の特性を併せ持つ、人間より優れた知能を持った物質。それがマルスだ。」

みどり「意味がわからない。」

王妃「理解するのは難しかろう。我々ですら数百年、この物質の謎に、挑み続けてきたが、まだほんの、わずかな一端しか把握できてないのだ。そのわずかな部分を、人類は活用し、それだけでも、劇的なくらい、文明は変わった。そのモノリスも、マルスの恩恵によって、生まれたものの一つだ。」

アスカ「マルスは、D-1と呼ばれる世界に、どこからかもたらされたとされているが、詳しくは分かっていない。D-1は滅んだからだ。D-1から脱出した何者かが、我々D-8にマルスを持ち込んだ。」

広一「その、D-1とか、D-8とかいうのは何なんだよ?」

アスカ「いわゆるパラレルワールドだ。宇宙の時空は歪んでいて、波紋のように広がっている。D-1とD-8の間、D-8とD-12の間にも、異なる世界は存在するが、我々D-8が観測した、あるいは仮定された世界をナンバリングしたものがその名称だ。D-12世界を発見した人物が、広一の大好きな…。」

広一「H・G・ウェルズ?」

典夫「ああ。彼はD-8世界とD-12世界を行き来し、次元移動技術の先駆者となったが、マルスの暴走を誰よりも危惧した人物でもあった。」

王妃「残念ながら、運命は彼の危惧するとおりになったのだが…。」

典夫「マルスは最初、単なるレアメタルだと思われていた。だが、この物質はゆっくりではあるが増殖し、分裂することがわかった。さらには反重力を持ち、自ら移動することもわかった。そして、時空間移動する物質であり、エネルギーを生み出すこともわかった。約200年で、マルスは人類の中心的なエネルギーとなった。社会システムは全てマルスに依存し、もはやそれなしでは生きていられなくなった。やがて、マルスをベースに、グランドと呼ばれるシステムが出来上がった。200トンのマルスが、我々の複雑な社会を管理し、人類を支配した。」

王妃「グランドは、枯渇する資源を、異次元に求め始めたのだ。D-4、D-5は、30年で壊滅し我々はその資源を欲しいままに貪った。そんな、15年前のある日…。」

アスカ「7月のある夏の日だった。大きなゾーンが外から開かれ、ある兵器が投げ込まれた。誰がやったのかはわからない。我々と同じ能力を持つ異次元人のしわざでしょう。そして我々同様、マルスの力を持つ者のしわざでしょう。その兵器は「アンゴルモア」と呼ばれた。アンゴルモアの放つ火は何人の侵入も許さず、青い光を放って燃え続けた。1度付いたら消えない火。世界は放射能に汚染された。けれども人類はグランドを信じ続け、マルスを頼り、猛烈に人口を減らしながらも何とか生きてきた。けれど去年、再びゾーンから火が投げ込まれた。今度は100の火が100のゾーンに、同時に世界に放たれた。これが「プロメテウスの火」。」

王妃「世界は火に包まれた。我らは、かろうじてこの地へ逃げた。そなたたちには、信じられないかもしれないが、これが、我らに起きた出来事なのだ。モノリオ、アイデンティカの話を。」

典夫「はい。異次元世界とは、互いに極めて似て非なる存在です。この世界にモーツァルトはいるけど、ショパンはいない。そんなわずかな違いがあるのです。だけど、アーサー・C・クラークはどちらの世界にもいる。この世界のアーサー・C・クラークは小説家だったけど、僕らの世界では、物理学者だった。ということは、お解りでしょう。どちらの世界にも同じ人間がいるのです。ある一定の確率で。こうした者同士を、我々の言葉でアイデンティカと呼ぶのです。」

アスカ「私の亡くなった許婚のナギサは、この世界では岩田広一という名で生きていた。」

広一「俺? 」

みどり「よく似ているの?」

典夫「同一人物です」

アスカ「あなたは私の許婚のアイデンティカ。そしてあなたの妹は、私のアイデンティカ。」

王妃「岩田広一。そなたには、我が国の王の資格がある。ぜひ、この国を、引き受けてくれないだろうか? モノリオ…。」

典夫「はい。」

王の欄王妃「王の欄を空欄としてある。そなたの心が決まったらここにサインを。今は考えられないだろうが、そなたには時間がたっぷりある。ゆっくり考えてくれればいい。だが、私にはもう時間がない。王妃として、言っておかなければいけないことを言った。さあ、これで私の務めはおしまい。あとは2人に任せます。」

「このD-12の世界は、美しい。青空など、久しく見てなかった。空も、花も、雨さえも美しい。できることなら、この世界で平和に暮らしたかった。今は…ただ眠りたい。少し…眠りたい。」

典夫「王妃は今、崩御されました。」

アスカ「おばあさま」

アスカは膝を落し号泣した。

広一とみどりは立ちつくした。江原老人は念仏を唱えた。


王妃死典夫「遺体はゾーンに落として葬る。ゾーンは別の次元に繋がっている。この次元と同期していない次元に落とせば、一瞬でちりになる。隕石が落下する前に燃え尽きるのと似ている。」

アスカ「待って。」

アスカは、みどりの贈った花を王妃の亡骸に供える。

アスカ「さようなら。おばあさま。」

モノリオはゾーンを開き王妃を葬った。アゼガミとスズシロを葬ればモノリスは尽きる計算になる。

「もう一つだけ聞いてくれ」と葬儀を終えたアスカは言う。

広一とみどりは異世界からきた少女を見つめる。

アスカ「今日はすまなかった。そなたたちを苦しませる結果になってしまった。王妃の話だが…広一が王となる話だ。あれは忘れてくれ。あれにサインしたところで、もはや意味がない。もはや我らに統べる民はおらん。あともう少し話をしたい。うんざりせずに聞いてほしい。」

みどり「何?」

アスカ「私はじきに死ぬのです。プロメテウスの火を見てしまったから。」

と言いながら放射線障害で抜ける髪を見せるアスカ。

広一「アスカ…。」

アスカ「ねぇ、広一…。みどり…。信じてほしいの。私たちの話を。これはみんな本当のことよ。嘘じゃないわ。せめて2人だけには、私たちの世界を記憶にとどめておいてほしい。」

広一「信じるよ。」

みどり「私、何もわかってなかった…。ごめんね…。」

(突然倒れ込むアスカ)

みどり「アスカ!」

眠りについたアスカを残し、広一とみどりは帰宅する。

「彼女の病気、なんとかならないのか」とモノリオに問う広一。

「できるものならなんとかしている」とモノリオは答えた。

広一は夜路をたどりみどりを家へと送る。月が二人を見下ろす。

みどり「ねぇ、見て。きれいな月。」

抱く広一「おお。」

みどり「そういえば、ここで流れ星見たね。」

広一「うん。」

不意に広一は、みどりを抱きしめた。

広一「俺は…やっぱりみどりのことが好きだ。」

みどり「なんで? 今…。そんな…。」

みどりは、広一の手を宥めるように撫でた。


一方、窓辺で目覚めたアスカは月を眺めていた。

アスカ「見よ。美しい月だ。」

典夫「姫…。」

アスカ「まだ泣いているとでも思ったのか?もう泣きはせぬ。ただ1人であろうと、我は王女アスカだ。」

泣く典夫「はい…。」

アスカ「大丈夫か? 泣いているのではないのか?」

典夫「いえ…。」

アスカ「泣いてみよ。」

典夫「泣いてみたいです。…泣いてみたいです。」


そういうアスカの瞳からこぼれる涙。

アスカ「決めた!」

典夫「何をですか?」

アスカ「明日から毎日好きなことをする。」

典夫「好きなこと? 今までもずっとそうだったのでは?」

アスカ「うるさい!」

物事を深く考えさせられた話だった。TVなのだからD8世界で起こったことをCGでも良いから描写して欲しいと思ったが、セリフだけで説明されていた。これだけのセリフを暗記する俳優もすごいと思ったが、恐らく放送尺が足りないのか予算の都合で作れなかったのかどちらかに違いない。昨年9月になぞの転校生をリメイクすることが決まり、先に予告編を作る事情からハーデスがゾーンに落ちるシーンも昨年12月初めころに撮影された模様。ただ第八話の王妃の手術でモノリスが大量に使われて発動されたシーンは見事だった。

【用語解説】
グランド・・・200トンのマルスを投じて開発された人間社会管理システム。
グランドの名の下に世界の平等を目指す思想はグランディズムと言われ旧政府の思想の中心であった。これに反発したのが革命軍であり、もはや権力すら持たなかった王家を奉じて革命を起こし、政府を打倒した。

アンゴルモアの火・・・1999年、大きなゾーンからD-8世界に投げ込まれた核兵器。一度爆発を開始すると、核融合反応を繰り返し、消えることがない。その炎は青い。

第十一話終わり

なぞの転校生 #12

$
0
0

なぞの転校生 #12

異次元世界D-8からやってきた王女アスカ(杉咲花)は放射線傷害による「死」を受容する。残された時間を楽しく過ごすことがその望みだった。山沢典夫こと王族護衛官の人間型ロボット・モノリオ(本郷奏多)は、その望みを叶えるために全力を投じるのだった。

休日、SF研究会部の鈴木(戸塚純貴)や太田(椎名琴音)とともに自主制作映画の撮影を公園で行っていた岩田広一(中村蒼)であった。

アスカからヒントをもらって脚本を書いた太田は自分がヒロインとしては役不足だと感じ、広一にアスカとみどり(桜井美南)の出演依頼をおねだりする。

広一「じゃ、連絡してみるけど」

広一がみどりに連絡すると、みどりはモノリオとアスカとともに公園でピクニックしていた。

合流した広一は、アスカの作ったサンドイッチを食べる。

アスカ「どうじゃ」

広一「おいしいよ」

アスカ「あれからいろいろ考えたであろう。考えさせてしまって申し訳ない。私も考えた。そして思った。せっかく訪れたD-12世界だ。一日一日を悔いなく楽しく生きたい。」

広一「うん。」

SF研究会部の太田くみが、手で写野を囲みながらみどり達に近づく。

写野みどり「ん?」

くみ「その表情、しかもこの景色。ああ、いい!」

拓郎「先輩!何サンドウィッチなんか食ってるんすか!」

広一「あ、いや…。」

くみ「皆さんにお話してくれたんすか?」

広一「あ、いや…。」

みどり「なになに?」

広一「映画に出演してほしいんだってさ。みんなに。」

みどり「え~やだよ。」

アスカ「映画?」

くみ「皆さん全員にです! はい、これ台本です!」

アスカ「なぞの転校生?」

くみ「ある日、平凡な暮らしをしている白鳥コウイチと四万十川みすずのクラスに、なぞの転校生、下北沢ユウトが転校してくるんです。一見普通の転校生なんですが、実は、別なパラレルワールドからやってきた異次元人。更にもう一人転校生がやって来るんですが、これが、異次元のお姫様。」

アスカ「よく考えたな!」

くみ「考えました!」

アスカ「ついでにその、下北沢なる転校生が、アンドロイドだったというのはどうだ? その身を挺して姫を守るのだ。」

くみ「そのアイディアいただき!」

アスカ「ついでにその物語すべてが、アンドロイドの夢だったというのはどうだ?」

くみ「アンドロイドって夢見るんですか?」

アスカ「SFってそういうもんじゃないのか?」

広一「確かに。」

みどり「でもなんか素敵! アンドロイドが夢を見るなんて。」

みどりもアスカもノリノリで出演依頼を承諾するのだった。

なぞの男子転校生とみどりのシーン。

みどり「ねぇ、山沢君。私、山沢君のこと…。」

典夫「僕は、アンドロイドなんだ。」

みどり「なにそれ? からかうのはやめて。」

典夫「アンドロイドだって夢は見る。でもそれは、君たちのように眠っている間にすることではない。今この瞬間にも、僕の頭の中では、情報の整理整頓やバグの修復がめまぐるしく行われていて、それを僕らは、アンドロイドの夢という。」
「未来に夢を描くことだってできる。たとえば、世界がずっと平和でありますように、とか。でもこれは夢じゃない。単なる言葉だ。僕の頭の中にあるAIが、状況に応じて機械的に繰り出してくる言葉にすぎないんだ。だから、僕の話す言葉は単なる言葉であって、すべて嘘なんだ。」

みどり「そんな話、信じられないよ。」

典夫「本当さ。この本当さという言葉。この本当さという言葉、というフレーズ。この本当さという言葉、というフレーズ、というセンテンス。こうして喋っていること自体が、プログラムなんだ。何を言われても、どんな目に遭っても、自分がどんなに悲しい思いをしても、苦しい思いをしても、つらい思いをしても、嬉しくても、楽しくても幸せだと感じても、それは本当の感情ではなく、プログラムされた結果のリアクションであり。悲しい、楽しい、嬉しい、苦しいという思いを、いくら心の中に抱いても、そこに心はなく。そういう言葉を、AIがケースバイケースで判断し、選択して音声化しているだけなんだ。君はきっと、僕のことが好きなんだろう。そんな君を前にすると、僕も君のことが好きな気がしてくるし、何か胸がどきどきしてくるし、愛してるという言葉を使ってみたくなるし、君を抱きしめたくなるし、キスしてみたくなる。」

みどり「それだけのことを感じるなら、人間と同じよ。あなたには心があるのよ。」

典夫「僕には心臓もない。だから、胸がドキドキするって言ったら、それは嘘なんだ。でも、AIはそういう嘘を思いつき、僕に喋らせようとする。」

みどり「私、好きな人がいたんだよ。でも、山沢君に会ってから、あなたのことが気になってしかたないの。初めて会った時、あなたが弾いてくれたピアノの曲を聴いたときから。」

典夫「ショパンの、雨だれ。」

みどり「あのときから…。」

典夫「それは僕も同じだよ。あの時から…いや…。日曜日に君から花をもらった時から、君のことが、忘れられなかったよ。」

みどり「覚えててくれたの?」

典夫「もちろん覚えてる。忘れるわけがない。ああ…ダメだ。結局、つまり僕は、君の言葉を聞いて、こういうふうに答えるようにしか、できていないのです。」

みどりみどり「私だってあなたにそんなふうに言われたら、こんな気持ちになるようにしかできてません。」

みどり「…人間だって嘘くらいつくわ。風が気持ちいい。」

典夫「…うん。」

太田くみが天才的な脚本家と言うよりは、みどりと典夫のアドリブだと思った。これも全てセリフなのだが、よく長いセリフを澱みなく言えるものだと思った。

なぞの女子転校生と広一のシーン。すでに公園は、夕闇に包まれ始めている。二人は劇中カメラに背をむけて、本編カメラ目線で語りだす。

アスカ「短い間だったけど、ホントにありがとう。見よ。この美しい世界を。我らの世界も…我らの世界も、かつてはこのように美しい惑星だった。」

くみ「さあ、ここでギュッと岩田先輩がアスカ先輩を抱きしめる!」

アスカ「ホントに美しい景色だ。この世界にはショパンがいない。かつて我らの世界で存在した作曲家だ。美しいピアノの旋律をいくつも書いた。D-12世界ではショパンを聴くことはできないが、我らの失ったものが数多く残る世界だ。」

「でもこの世界も、いつまでもつかはわからない。この世界にはモノリスがない。だから我らのような滅び方はしないかもしれない。プロメテウスの火を見ることもないかもしれない。」

「けどまだ不安は拭いきれない。文明とは、人類とは、思ってるよりも、脆いものなのだ。この世界の人類も、いつかはこの星から消えることもある。だからこそ、大切にしてほしい。この星を。仲間を。友達を。」

くみ「アスカ先輩、すごいアドリブ。」

アスカ「広一!」

アスカは、許嫁のナギサのアイデンティカの胸で泣くのだった。

アスカ「まるで夢のようじゃ」

滅んだ世界のたった一人の生存者はつぶやいた。

二人の抱擁をこっそりとモノリオと手をつないだみどりは、複雑な表情で見守るのだった。そして撮影は終了した。

高校生たちと二人のなぞの転校生は、それぞれの思いを胸に同じ方向の家路につくのだった。

翌日、広一とみどりは担任の大谷先生(京野ことみ)から典夫とアスカが別れの挨拶もなしに転校して去ってしまったと告げられる。すべては、一瞬の夢だったように彼らは去った。


・・・それから一ヶ月後、みどりはようやく夢から覚めた気分になるのだった。それは学校の帰り道だった。

みどり「広一くん。明日、二人でどこかへ行きたいな」

広一「いいね」

下校する二人は、公園のベンチに座る江原老人(ミッキー・カーチス)を発見する。

広一「江原さん、おじいさん」

江原「どちらさまですか?」

広一「???」

そこへ老人ホームの職員がやってくる。

職員「江原さ~ん。ここにいたのね。あら?あなたたちは?」

広一「僕は江原さんの部屋の隣に住んでいるものです」

職員「まあ!江原さん今は施設に入っているんですよ」

広一「そうなんですか」

その時、江原の目に一瞬の知性が蘇る。

江原「おい、あの二人頼むよ」

広一「え?」

江原「あの若い二人だよ」

広一「二人って」

しかし江原の知性は、時空の彼方に消えていった。

翌日、広一は寝坊して母親(濱田マリ)に起こされる。幼馴染のみどりは、すでに居間でくつろいでいるのだった。

広一「ごめんすぐに支度するから」

みどり「そんなにあわてなくても大丈夫よ」

微笑むみどりだった。

部屋を出たみどりの視線は隣室へ注がれる。みどりと広一は岩田家のドアの前に立つ。

広一「何か音がしなかった」

みどり「え?」

広一「中にいるんじゃ?いや上だ、屋上で変な音がする」

二人は階段を駆け上がる。

そして屋上には異次元空間へと通じる白い光のゾーンが開きかけていた。

現れたのは、広一の父親の亨(高野浩幸=二役)によく似た男である。

しかしその装束は、異世界の住人であることを示すものだった。

D-15次元調査団続いて姿を見せる広一のクラスメートのアイデンティカ。

「あ、この方は」

「ナギサ様のアイデンティカだ」

その言葉に男たちは、広一に恭しくお辞儀をするのだった。

広一「親父、何やってんだよ?」

岩田「混乱させて、申し訳ない。私はあなたの父親ではない。D-8世界は、滅びました。」

才蔵「我々は、D-15世界の人間なんです。」

春日「私たちは、D-15世界からやってきた、次元調査団のメンバーです。彼が隊長の…」

岩田「岩田広一です。」

広一「岩田広一?」

みどり「岩田君と同じ名前。」

岩田「名前だけじゃない。僕は、君のアイデンティカなんです。こんな年に差があっては、見間違えるのも、無理はない。」

春日「あなたも将来、こういう顔になるということですよ。」

広一「えっ? えっ!?」

才蔵「この世界を選んで、王家を誘導したのも我々なんです。今は、D-21世界を調べている所です。」

大森「かなり奇妙な世界ですからね。あそこは。」

岩田「本当は、我々のふるさとである、D-15世界に、お連れしたかったのですが。次元移動とは、そう単純にはいかないものですから。現に我々が到着するのも、こんなに遅れてしまった。」

才蔵「下の部屋を見させてもらっていいか?」

広一「鍵がない。」

才蔵「鍵なんかいらない。」

二人の広一とD15世界の人々は江原家に侵入する。無人のように静まり返った室内。

もはやアスカの生命は失われてしまったのかとムーくんが諦めた時、アスカの寝室にモノリオがひっそりと佇む姿が見える。

才蔵「誰かいるのか?」

広一「山沢!」

「典夫くん」と思わず叫ぶみどり。

ペッドには、瀕死のアスカが包帯だらけの無残な姿で横たわっている。

二人はずっとここにいたの?みどり「2人はずっとここにいたの?」

広一「なんでだよ? なんでずっと黙ってたんだよ?」

典夫「姫がそうしろと、お命じになられた。」

才蔵「姫のご容態は?」

典夫「もうダメです。打つ手はない。」

才蔵「DRSは? 試したのか?」

典夫「動かすためのモノリスがない。」

才蔵「モノリスならあるぞ。D-15世界に行けば。」

典夫「えっ?」

岩田「そのために、我々は来たのだ。オペに必要な量は?」

典夫「200テラぐらいあれば。」

才蔵「そんなの楽勝だ。」

みどり「ねぇ、どういうこと? アスカは助かるの?」
アスカ
岩田「大丈夫だよ。」

「よかったわね」とみどりは、モノリオに飛びつくのだった。

包帯から覗くアスカの瞳からも涙がこぼれる。

しかしモノリオは泣けない。

岩田「さあ行こうか・・・」

担架を待つ間にD15世界の広一は、D12世界の広一とみどりに語りかける。

岩田「山沢といったか・・・あのモノリオは。」

みどり「山沢典夫です。」

岩田「その名は、我が友の名だ。D-6世界から、私たちの世界にやってきた。私たちが出会ったのも、君たちと同じような年頃だった。この世界は無限に広がっている。我々の命も繋がっている。それを知ることがいいことなのか悪いことなのか、それは誰にもわからない。一度知ってしまった我々は、もう後戻りできない。でもときどき僕は…それを知ってよかったと思う時がある。

たとえば今日だ。君たちに会えた。僕自身のアイデンティカと、我が妻のアイデンティカに。僕らの世界では、君たちは夫婦なんだよ?」
ミユキ
広一「えっ?」

みどり「そうなんですか?」

岩田「さて、君たちはどうなるかな?」

岩田「ミユキ。私の娘です。ほ~ら、恥ずかしがってないで、顔を見せなさい。」

ミユキ「はじめまして。」

みどり「はじめまして…。」

覆面をとったその女性は、みどりのアイデンティカだった。
みどりは自分のアイデンティカを初めて見て、信じられないような目でミユキを見るのだった。

次元調査団帰途姫の搬出が終わり、次元調査団はゾーンを超えてD-15世界に帰って行った。次はモノリオが別れを告げる。

典夫「岩田君。いろいろ、ありがとう。」

広一「また会おうぜ。」

典夫「香川さん。」

次元調査団みどり「元気でね。」

そしてモノリオは、時空の彼方に消えていった。

ゾーンは閉じられ、D12世界には一陣の風と一筋の光が残された。

広一とみどりは、いつまでも空を見上げていた。

みどり「あの人にまた会えるかしら」

広一「あらゆる可能性があるし、そして世界はつながっているきっと会えるよ」

みどり「私たち結婚するのかな」

広一「それは君次第じゃないのかな」

広一はみどりを見つめ、みどりは意味深な笑みを返すのだった。

流れ星そして別世界でのゾーンの開閉によって生じた流星を発見する二人がいる。

みどり「あっ、流れ星。」

広一「何、お願いしたの?」

みどり「言わない。」

幼馴染の二人は微笑む。

リメイクされたなぞの転校生は、ここで番組が終わった。全ての謎が解けた今、自分なりの続編を考えてみたくなる。D-15世界に行った一行が待つ未来を・・・

人間の山沢典夫そこには人間の山沢典夫(星野利晴:NHK版)とヒューマノイドの山沢典夫(本郷奏多:TV東京版)が会っているに違いない。D-15世界には、D-12世界の広一(中村蒼)のアイデンティカはいないかも知れない。

D-12世界の広一がいないD-15世界のアスカは治療が終わった今、何を考えているのだろうか?そして何をしようとしているのだろうか?後は、皆さんなりに物語を考えていただければ幸甚です。

1975年の「なぞの転校生」で岩田広一を演じた高野浩幸が、今回の岩田広一の父親役を演じていたのだが、単なる父親役で終わらなかった最終回の離れ業に圧倒された。異次元人として、非常に重要な役どころで屋上に現れる彼は「岩田広一」と名乗る。「D15世界から来た」と言うのを聞いて一気に感動した。D15はNHK版の舞台。その時の岩田君にまた会えた。山沢典夫の名を「わが友の名だ」と懐かしんでいた。世界はどこかでつながっているという物語のテーマが見えた。

山沢(モノリオ)との別れのシーンは、1975年版と同じ団地の屋上。広一とみどりが見送る。姫にしか示さない仕草でみどりにお別れをするモノリオがチャーミング。別れの春にふさわしい、すがすがしいドラマだった。

ちなみにコラムニストの亀和田武は、比類なき映像美と岩井俊二によって創出された、原作にはない「アイデンティカ」という設定を称賛し、また元の世界にいた時の気品を崩さない「プリンセス」然とした杉咲花の好演を評価し、不朽のSF学園ドラマであると評した。

【用語解説】
次元調査団・・・D-15世界からやって来た、岩田広一を隊長とする異次元空間を調査する組織。現在、才蔵、大森、春日愛たちのアイデンティカと共にD-21世界を調査中。

D-15世界・・・パラレルワールドのひとつ。
ここに住む岩田広一のアイデンティカは39年前に山沢典夫という異次元人と知り合った。
岩田広一は今では次元調査団の隊長となり、D-12世界の王家をサポートするほどの次元マスターになっていた。
39年前の物語についてはSF作家・眉村卓という作家が小説に残している。

第十二話終わり

なぞの転校生 ロケ地

$
0
0

泉南マンション地図
泉南マンション地図

泉南マンション
泉南マンション

なぞの転校生 ロケ地となったのは、栃木県佐野市の泉南マンションです。JR佐野駅から東武佐野線の佐野市駅に近いです。そこの5階で写真手前側の2部屋が室内ロケとなった模様です。

香川生花店
香川生花店

香川生花店は、東京都北区堀船3-38-4 花キャンモア
香川みどりの家は、佐野市内のロケではなかったですね。花屋のシーンのみ別の日に撮ったと言うことでしょうか?

東京都北区堀船3-38-4 花キャンモア
東京都北区堀船3-38-4 花キャンモア

栃木県立田沼高校
栃木県立田沼高校

高校の校門ロケは佐野松桜高校、教室と周辺のロケは栃木県立田沼高校で行われました。
ちなみに栃木県立田沼高校は2013年3月31日に閉校したので、ロケは2013年11月以降に行われました。モノリオが屋上から落とされたのも同じく栃木県立田沼高校の屋上からです。
Viewing all 7530 articles
Browse latest View live


<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>