なぞの転校生 #06なぞの転校生の原作には登場しないが、NHK少年ドラマシリーズでは異次元人の象徴として登場する★(星型)のアザ。ドラマ24版では、人格改造装置・アステロイドとして登場する。
侵略の拠点となった江原正三(ミッキー・カーチス)の部屋でモノリオに社会不適合者として認定された男たちは、モノリオの使い捨て使用人として改造されている。知的物質モノリスを利用したD8世界では、人類は禁断の領域にまで発達したテクノロジーが存在する。
アステロイド使用奴隷一号となった殺人者・冴木(碓井将大)は、モノリスによって活性化した江原老人と共にモノリオの支配下に置かれた。
社会的に不適合な悪の因子を持った冴木に魅了されていた女子高校生・咲和子(樋井明日香)は消息不明となった彼を求めて、今日も不良たちのたまり場だったひび割れた壁のある屋上に姿を見せる。
咲和子「冴木、どこへ行っちゃったんだ・・・」
そこへ女友達が冴木の目撃情報をもたらす。恋する女は冴木の元へ駆けつける。しかしそこにいたのは、江原老人と共に買い物袋を提げた大人しい冴木だった。
咲和子「冴木、何やってんだよ」
冴木「買い物ですけど」
咲和子「ですけどって・・・このじじい、誰だよ?」
冴木「山沢くんのおじいさんです」
咲和子「山沢くんって・・・」
冴木「知ってるだろう?山沢くん・・・」
咲和子「・・・」
冴木「ほら一昨日、僕が屋上から突き落としたあの山沢くんだよ」
咲和子「何なの? 何で僕とか言っちゃってんの?あんたいつからいい人になったんだよ?」
冴木「えっ? いい人になんかなってないよ。山沢君の家に近々引っ越しする人がくるから、そのお手伝いをしようと思って。」
咲和子「喋り方とか別人。あんた、ホントに冴木小次郎? ねぇあんた、どうしちゃったんだよ?」
冴木「どうもしないよ。一昨日山沢君のこと、屋上から落としちゃったじゃない。彼、危うく死ぬところだったよ。だからその罪滅ぼしっていうのもあってさ、彼のお手伝いを買って出たんだ。いくら謝っても謝り足りないけど、謝れる限り謝るよ。」
咲和子「うぜぇ。うぜぇ~!」
思わず買い物袋を叩き落とす咲和子。
冴木「だめだよ。食べ物を粗末にしちゃ・・・」
落ちたものを拾う冴木の首に★を発見する咲和子。
咲和子「なんだよこれ・・・」
冴木「痛いっ」
咲和子「え・・・」
冴木「とにかく、僕は君にもひどいことをしたことがあるから今度謝るよ。でも今は、買い物を山沢くんの家に届けなければならない」
咲和子「何なんだよ。どうなっちゃってんだよ。ワケ分かんねえよ」
仕方なく、冴木を追跡する咲和子だった。江原老人の住居の前に巨大なトラックが停車していた。
モノリオの奴隷となった街の不良たちは、次から次へと荷物を江原老人の部屋へ搬入していた。
奇妙なことに巨大なベッドまでが、それほど大きくない老人の部屋の扉を通過していく。
そして老人の部屋のスペースには、到底おさまりきれない物品が次から次へと運びこまれて行くのだ。
しかし咲和子はそのことに気がつかず、作業を監督するモノリオと鎌仲才蔵(葉山奨之)に目を留めるのだった。
咲和子「おい、これどういうことだよ」
才蔵「やあ、君か」
咲和子「なんであいつらが山沢の手下になってんだ」
才蔵「おいおい、山沢はあいつらを手下になんてしてないぞ。あいつら、喜んで仕事してるよ。なんていうか山沢に惚れたんだな」
咲和子「なにいってんだサイゾー。お前もおかしくなっちゃったのか」
才蔵「なんでだよ」
咲和子「急に山沢と仲良くなるなんておかしいじゃねえか」
才蔵「俺は山沢とダチになったんだよ。みんなだってそうさ。ようするに目覚めたんだ」
咲和子「何に目覚めたんだよ、お友達ごっこか?」
才蔵「だから本当にダチになったんだよ。見りゃわかるだろう」
咲和子「そんなバカなこと信じられるかよ」
才蔵「お前本当にさびしいやつだな」
咲和子「お前に言われたくねえよ」
二人のかみ合わない口論をよそにモノリオは告げる。
典夫「ちょっと出かけてくる。後は頼んだよ」
才蔵「まかせておけ」
モノリオは、冴木を連れてその場を離れる。
咲和子は、男たちの首筋に★があるのに気がついていた。
咲和子「おいサイゾー、ちょっと首を見せろ」
才蔵「なんだよ、お前まさか俺に」
咲和子「違うよない、お前はないのか」
才蔵「なんの話だよ・・・」
咲和子は何か、想像を超えた出来事が起きていることに気がついた。
しかし、それが何かを理解することはできなかった。
モノリオと冴木は、この町の実質的な支配者であるサイゾーの父親・鎌仲龍三郎(河原さぶ)の経営する鎌仲商事へやってきた。
冴木だけがロビーの受付を訪ねる。受付嬢(皆川舞)は来訪者としては奇妙な少年に笑顔で応ずる。
受付「何か御用でしょうか」
冴木「僕は、鎌仲会長のご子息のサイゾーくんの友人です。鎌仲会長に会いたいのですが」
受付「少々、お待ちください」
やがて会長の意を受けたらしい鎌仲商事常務の笹井(野口雅弘)が現れる。
笹井「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか」
冴木は、モノリスを取り出していた。モノリスによる閉鎖空間が形成され、空間内の人格は情報操作の対象となる。
冴木「会長室はどこか?」
笹井「44階にあります」
冴木「会長はいるのか?」
笹井「はい。しかし、入室には虹彩認証が必要です」
冴木「君の虹彩は、登録されているか?」
笹井「はい」
モノリスは、笹井の虹彩を瞬時にコピーした。
もちろん屋外からモノリスを通じて冴木をコントロールしているのはモノリオである。
東西山高校2年3組では、のどかに不在の山沢典夫が話題になっていた。
「山沢くん、今日も欠席だよ」と春日愛(宇野愛海)。
「なんだかおかしいよな、あいつ」と大森健次郎(宮里駿)。
みどり「別におかしくはないと思うけど、ちょっと心配よね。ムーくん、帰りに一緒に寄ってみない?山沢くんのとこ」
広一「うん・・・」
みどりと広一は、山沢が屋上から落下して無事だったという奇妙な話を聞いていた。
しかし、実際にどうだったかについては半信半疑である。話の出所が不良の咲和子だったからである。
そして広一は、その後に驚くべき光景を目撃するがその記憶は消去されてしまった。
だが、二人の感じる山沢典夫に対する違和感は微妙にずれている。
転校生の奇妙な行動については、クラスメートたちも不信感を募らせていた。
ホームルームで担任の大谷先生(京野ことみ)に山沢の不審な行動を問う声があがる。
「あの転校生、このままでいいんですか?」
「授業を平気で抜け出すし、欠席ばかりだし」
「理事長の親戚で入学試験もフリーパスだったとか」
「ま、どうでもいいんですけどねえ」
大谷先生は人格制御された寺岡理事長(斉木しげる)の説明を生徒に伝える。
大谷「山沢くんは理事長の親戚ではないそうよ。入学試験を受けて合格したけれど健康的な問題でこれまで通学ができなかったそうです。学力的には二年に編入しても問題ないことはみんなも知っているわよね。これはプライベートなことなのであれなんだけど、学校を休みがちなのは健康的な問題がまだ解決していないということだということ。そのあたり、みんなもくんであげるといいと思う」
みどりは問題が解決したような気分になり、思わず拍手するのだった。
数人の生徒たちが拍手に加わる。しかし、広一は拍手の輪に加わることができなかった。
山沢のことが気になるのか、山沢をかばうみどりのことが気になるのか・・・。
広一は自分の気持ちを持て余す。そそくさとSF研究会の部室にこもった広一をみどりが追いかける。
みどり「どうして拍手してくれなかったの」
広一「あんなの茶番だもの」
みどり「茶番ってどういう意味?」
広一「入学試験に合格したなんて、あいつは俺に会うまでこの学校の存在すら知らなかったんだぜ」
みどり「なんだか冷たいのね。ムーくん山沢くんのこと、どう思っているの」
広一「変なやつだ」
みどり「変って・・・」
広一「屋上から落ちてピンピンしている奴が、健康に問題があるってどういうことだよ」
みどり「そのこと、みんなに言ってないでしょうね」
広一「みどりが言うなって言うから、言ってないよ」
みどり「これ以上、変な噂がたったら可哀想だもの」
広一「みどり・・・君は山沢の事が好きなのか」
みどり「そんな、そういうんじゃないわ。山沢くんは、同じ班の仲間じゃない」
広一「・・・そうかな」
みどり「なによ、どういう意味」
広一「さあ?みどりは、山沢に優しすぎると思うから」
みどり「私は・・・」
広一「あいつをおかしいと思わないのがその証拠だ」
みどり「・・・」
広一「知りもしなかった学校の入学試験に受かっているなんて、記憶喪失でもしてるみたいじゃないか」
みどり「記憶喪失よ! あの人記憶喪失なのよ。だから、何かおかしいのよ。そう思わない?」
広一「記憶喪失って、そんな滅茶苦茶な…。」
みどり「山沢君はムー君が好きなのよ。ムー君がいたからこの学校を選んだんでしょ? 山沢君が記憶喪失だとしたら、何か、ひっかかったんじゃない? あなたに。だからこの学校を選んだら、実はもう入学している学校だった。どっかで会ってるんじゃない? あなた達2人。この学校と失くした記憶を繋ぐヒントが、ムー君だとしたら、ひょっとしたらムー君、彼の記憶も蘇らせることができるんじゃない?」
広一「凄いね、みどり。SF研に入んない?」
みどり「いい推理でしょ。」
広一「っていうか、一生懸命すぎるよ、あいつに。」
みどり「そうかな?」
広一「覚えてる? 夜の体育館でみどりが俺に言ったじゃん。俺はみどりのことが好きなんじゃないかって。図星だったよ。俺はみどりのことが好きだ。でも、みどりは山沢のことが好きなんだな。」
みどり「流れ星に何てお願いしたと思う?私の好きな人が、私のこと好きになれって願ったの。それってあなたのこと。」
広一「だったら、その願いは願う前に叶ってたよ。」
みどり「やった!」
広一「喜んでいいの?」
みどり(頷く)
広一「本当に?」
みどり「ムー君、ひどい。何でこんなタイミングにこんなこと言い出すの? あの夜、体育館で言ってくれたらよかったのに。」
広一「何で今じゃダメなの?」
みどり「自分でも、自分の気持ちがわからくなってる。」
みどりは典夫に心を奪われていると確認してしまった広一は、衝動的に撮影中の模型を叩き壊してしまう。切なすぎるシーンだった。
一方、冴木は会長室に乗り込んでいた。
会長「なんだ君は・・・」
冴木「冴木です・・・」
会長「冴木?」
モノリスが鎌仲会長の高次元精神改造を開始する。
屋外では、モノリオが制圧の完了を確認しようとしていた。
しかし、モノリオのモノリスは警報を発するのだった。
典夫「なんだよりによって、この局面で不具合が起るなんて・・・」
あわててモノリオは会長室に向かう。そこに咲和子が現れる。
ロビーでは、閉鎖空間に閉じ込められた受付嬢と笹井常務がフリーズしたままだった。
咲和子「なんだ・・・これ」
典夫「君、どうしてここに・・・」
咲和子「お前を尾行してきたに決まってるだろう」
典夫「・・・」
咲和子「おい待てよ!説明しろよ」
典夫「そんな暇はない。ついてくると、君は死ぬことになるよ」
咲和子「死ぬって・・・」
思わず立ち止まる咲和子。
モノリオは会長室へ向かう。逡巡していた咲和子の前にサイゾーが現れる。
咲和子「お前、なんでここに・・・」
才蔵「何言ってんだ?ここは俺の家だぜ」
呑気に階段を上がるサイゾーを追う咲和子だった。
会長室では、モノリオが警告メッセージを放っていた。
会長と冴木はモノリオの影響下に置かれ、精神的にも肉体的にも危険な状態に置かれている様子である。
「何が起きた」と問うモノリオ。
モノリス「ターゲットはモノリスを初期化しようとしています。ターゲットを殺しますか?あるいは、モノリスを初期化しますか?ターゲットはモノリスを初期化しようとしています。」
典夫「モノリスの誤作動か?」
警報を聞いた才蔵と咲和子も階段を駆け上がる。
才蔵「お前、何やってんだよ?」
典夫「細かく説明している暇はない。俺が殺せと言ったら、親父の心臓をマッサージしろ。」
才蔵「えっ? 何で殺す?俺に親父を殺させるつもり?」
典夫「違う。逆だ。心臓マッサージをしろ。心臓マッサージだ。心臓が止まるから動かすんだ。いいか?」
才蔵「やったことねえよ。」
典夫「とにかく、心臓が動くまで力いっぱい胸板を押すんだ。ポンプみたいにな。あばら骨が折れてもだ。」
才蔵「わかった。つまり、親父の心臓が今、止まっちまってんだな。それを動かすんだな。わかった。」
典夫「止めるのは今止めるから、すぐ動かすんだ。」
才蔵「はぁ? ちょっともう、分かんなくなってきた。」
典夫「わかった。一つだけ、心臓をマッサージしろ!」
才蔵「わかった。」
モノリス「ターゲットを殺しますか?あるいは…」
典夫「殺せ。(才蔵に) 早く!」
才蔵「ああ。こんな感じか?」
典夫「うまいうまい。(冴木に) 行くぞ。(咲和子に) お前も逃げろ。おい!」
咲和子「私は逃げないよ。」
典夫「はっ?」
咲和子「ここに残る。今見たことを警察に話す。あんたが鎌仲会長を殺したことを、警察に話す。」
典夫「馬鹿な、そんなことをしたら・・・」
その時、冴木のモノリスが活動を再開する。冴木はモノリスから咲和子にむかって心肺停止信号を射出する。
典夫「やめろ!」
咲和子は、のけぞりながら心臓の鼓動をとめる。
その時、会長が息を吹き返す。
冴木「この判断は正しかったと思いますが…。」
才蔵「生き返ったぞ!」
典夫「よくやった。次はこの子だ。」
才蔵「えっ?」
典夫「急げ!」
才蔵「おっぱいがあるぞ!」
典夫「気にするな。揉め!」
モノリオは、冴木を抱えて退避行動を開始する。
冴木「咲和子を助けるんですか?任務に反するのでは?」
典夫「殺したらもっと厄介なことになる。最善とは言えないが、妥協案としては悪くない。」
冴木「いっそ、警察も制圧してしまっては?」
典夫「そんな余裕はもうないよ。D-8世界から追加のモノリスを送ってもらえないと。それより、困ったことになったな。」
冴木「咲和子のことですか?」
典夫「いや、問題は鎌仲龍三郎だ。モノリスをコントロールしようとした。」
冴木「え?」
典夫「単なるバグなのか、あるいは誰か好ましくない者が、この世界に来ているということなのかもしれない。」
不確定要素を残しながら、モノリオは次元回廊を解放する期限を迎える。
典夫「なんとか、間に合ったな」
江原老人の部屋は、D8世界のテクノロジーによって容積を拡大していた。
合わせ鏡のような次元通路の開口部は、無限の彼方に向かって開かれる。
やがて、崩壊しつつあるD8世界からの移住者たちが回廊に現れた。
モノリオの奴隷たちは回廊に入りこみ、移住者たちの通過をサポートする。
従者達がD8世界からの荷物を運び入れている。やがて白泥に覆われたようなアスカ姫(杉咲花)の姿が出現する。
姫「久しぶり。モノリオ。」
モノリオの上官であるアゼガミ(中野裕太)がやってくる。
アゼガミ「王妃様が重体だ」
典夫「準備はできております。ストレッチャーのままこちらへ」
寝台車の王妃(りりィ)は拡張された空間にある手術室に運び込まれる。そこはモノリスによって高機能洗脳された医師(並樹史朗)や麻酔医(早川知子)や看護師(山崎智恵)が待機している。
麻酔医「麻酔かかりました」
医師「腹壁損傷のオペを始めます・・・バイタル」
看護師「レート60・・・血圧75・・・STO2 98%」
医師「針糸サンゼロ」
看護師「はい・・・」
移住者たちの長い夜が過ぎていく。やがて夜が明け朝を迎えた。モノリオは彼らを屋上に連れていく。
典夫「D-12世界は美しいところです。今日は青空も見えそうだ。太陽も昇っています。」
スズシロ「青空…美しい。」
アゼガミ「素晴らしい。」
スズシロ「春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際 少しあかりて 紫だちたる 雲の細く たなびきたる」
アゼガミ「D-12の者たちは、毎日こんな美しいものを見て暮らしていたのか。ゲホッ…。」
スズシロ「こんな世界があったのね。なぜ彼らはああもやすやすとこれらを手放せたのだろう。」
アスカ「プロメテウスの火は、いつまでも燃えていたわ。」
燃え続けるプロメテウスの火。それは恐るべき破壊を招いたテクノロジーの暴走を指すのか。それともD8世界を滅亡に導いた人工太陽なのか・・・。すべては、まだ謎に包まれている。
【用語解説】
プロメテウスの火・・・核兵器。100のゾーンから同時にD-8世界に放たれた。アンゴルモアの火とは異なる核兵器なのかは定かではない。この攻撃によってD-8世界は滅亡し、王妃、アゼガミ、スズシロ、そしてアスカはこの火を至近距離で見て、人体に致命的な被曝を受ける。
第六話終わり