河豚の卵巣の糠漬けは、石川県の郷土料理である。河豚の子糠漬けとも呼ばれる。フグの卵巣には、肝などと同様に致死性の高い毒素であるテトロドトキシンが多く含まれているため、そのままでは食用にできない。しかし、石川県白山市の旧美川町地域、金沢市の金石、大野地区では、その卵巣を2年以上にもわたって塩漬けおよび糠漬けにする事で、毒素を消失させ珍味として販売している。
食品衛生法により食用を禁止されている卵巣をこの加工法で食品として製造しているのは、日本全国でこの美川、金石、大野地区のみ。味は濃厚で米飯とともに食べたり、酒の肴として重宝されている。
5月から6月にかけて日本海沿岸で獲れたゴマフグを解体し、取り出した卵巣を1000ℓタンクに漬け込む。この際に約30%もの食塩を加えるため、内部の水分が外に出て卵巣が固くなる。塩蔵は1-1.5年間かけて行なわれ、それが終わると水洗いして表面の塩を除いた後に糠、米麹、唐辛子とともに一斗樽に漬けられる。この糠漬けの工程では石の重しなどで木の蓋を押さえて空気に触れないようにし、イワシの魚醤が縁から注ぎ込まれる。
半年ないし1年ほど糠漬けされた卵巣は、採取してマウスでテトロドトキシンの含有量を調べた後、出荷される。石川県の要項では基準値は1グラムあたり10マウスユニット以下となっている。また、糠漬けの後にさらに酒粕に1ヶ月漬け込むと河豚の子粕漬けとなる。