母乳栄養の利点は身体、精神両面にわたり、母子両者に及ぶ。子供は母体からの栄養素と抗体が得られる。授乳はまた心理的に母子の絆を強める。また、母乳栄養を行うと正常な腸内細菌叢(フローラ)が早期に形成され、下痢の防止と免疫機能に役立つ。
母乳栄養は母親にとっても利点がある。授乳の際分泌されるホルモンには気分を落ち着かせる効果があり、育児に前向きな気分を感じさせる。出産のできるだけ直後から母乳栄養を行うと、分泌されるオキシトシンが増加するため子宮復古を促進し、出血を抑える。母乳を生成するのに脂肪が消費されるため、ダイエット効果もある。頻繁に授乳している間は、排卵や月経の再開が遅れて妊娠しにくい。そのため母親の貯蔵鉄を回復し、子どもが授かる間隔が自然になる。母乳栄養を行った母親は、出産後骨の再石灰化が進むことも知られている。閉経前後を問わず、卵巣腫瘍や乳癌のリスクが減少することも知られている。
授乳は自然な行為に見えるが、上手に授乳するにはそれなりのテクニックが必要である。授乳がうまくいかない主な理由は赤ん坊の抱き方で、抱き方が悪いと乳首や乳房をいためやすい。赤ん坊の頬を軽く押して乳首を口につけると、赤ん坊は唇を開き乳首の側を向く。そこで乳首と乳輪が赤ん坊の口一杯になるくらいに含ませる。そうすると乳首は赤ん坊の咽の奥に当たるはずである。この体勢をつくることをlatching onという。陥没乳頭、扁平乳頭の場合はマッサージによって赤ん坊がしゃぶりつけるだけの余地をつくりだせる。普通のブラジャーより乳首を出しやすい「授乳用ブラ」を使う女性が多い。
数分たつと、あるいは十分長く飲んだ後、赤ん坊は乳首を離そうとする。そのまま同じ乳房から飲み続けることもあるし、もう一方の乳房を与えてもよい。乳腺が空になっていくにつれ、脂質含有量が増える。時間制限を行ったり、すぐ次の乳房に移らせたりしないで、飲み始めた乳房が空になるまで飲ませてよい。
授乳時間はさまざまである。その長短にかかわらず、授乳している女性が快適な状態にあることは重要である。