ラスベガス万才の初公開日は、1964年5月1日。1960年以降、兵役に就いて丸くなってしまってからのエルヴィスの映画の中では群を抜く一作で、J・カミングス製作=G・シドニー監督のMGMミュージカルのよきセンスが発揮された。
ヴェガスで一発当てた貧乏レーサー、ラッキー・ジャクソン(エルヴィス・プレスリー)は、待望のエンジンが買えるとメカニックの相棒を大喜びさせたのも束の間、肝心の金をホテルの水泳教師ラスティを口説くのに夢中でプールに落してしまう。
そこで、そこのボーイとなって金を稼ぎ、イタリアの伯爵レーサー・エルモと、ラスティをめぐって恋のレースにもしのぎを削るという次第。冒頭、エルモの車の下周りを覗き込む男二人の背後に現れるラスティ(アン・マーグレット)の脚線美が麗しい限り。
全く彼女は顔もお尻も小さくて、永井豪のマンガ“キューティーハニー”が具現化したよう。正体の分からない彼女を探してのヴェガスの有名クラブめぐり。ホテル職員の芸能コンテスト等々の華やかさは当然期待通りだが、ロード・レースの場面で見れるネヴァダの風光もすがすがしく、一粒で二度おいしいキャラメルのようだ。
チャチャチャ調の軽快な主題歌が、とってつけたようにフィナーレで再び唄われるあたり、これはパラマウント製の音楽映画ではなく、MGMのミュージカルなのだとやはり意識させる。ハイライトは、マーグレットが毛皮を脱いだら水着とお約束の、コンテスト場面で唄われる“アプリシエーション”。