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なぞの転校生 #05

なぞの転校生 #05

広一はSF研究部からSF研究会に格下げになったクラブハウスで自主制作映画「宇宙戦争」のジオラマ特撮に熱中するのだった。

そこへ・・・年下の幼馴染である咲和子(樋井明日香)がやってくる。

咲和子「岩田広一いるか?ちょっと顔かせよ」

応じる広一を不安げに見つめる後輩の鈴木拓郎(戸塚純貴)と太田くみ(椎名琴音)・・・。

階段の踊り場で広一と咲和子は話しあう。

咲和子「ここだけの話にしてくれよ」

広一「なんだよ・・・」

咲和子「山沢典夫って知ってるだろう」

広一「山沢・・・」

咲和子「あいつ屋上から落ちた・・・」

広一「屋上から?それで山沢は・・・」

咲和子「ピンピンしてた」

広一「なんだそりゃ」

咲和子「おかしいだろう・・・」

広一「・・・」

咲和子「もしかして家に帰ってから内臓破裂で死ぬんじゃないかって・・・」

広一「内臓破裂してたらその場で死ぬだろう」

咲和子「こわいんだよ・・・」

広一「おいまさか落ちたんじゃなくて、落されたんじゃないだろうな」

咲和子「・・・」

広一「お前、まだ不良たちと付き合ってるのか」

咲和子「ほっとけよ。それより山沢のことが心配なんだよ。あんた、山沢のお隣さんなんだろ・・・」

咲和子は泣きだすのだった。

広一「わかった。帰って様子を見る」

急いで帰宅した広一は隣家を訪ねるが、江原老人は山沢の不在を告げる。

所作に窮した広一は最近、山沢に興味を示している香川みどり(桜井美南)に連絡をとる。

広一「山沢が屋上から落ちたらしい」

みどり「なんですって・・・」

みどりは飛んでくるのだった。

その迅速な対応に胸騒ぎを感じる広一。

その時、江原老人が外出してくる。

みどり「尾行しなさい」

広一「え」

みどり「何か事情があるかもしれないでしょう」

広一「君は・・・」

みどり「あんたバカ、二人で行ったら、部屋に山沢くんが戻って来た時にフォローできないじゃない」

広一「・・・」

みどり「急いで、見失うわよ」

広一が去ると広一の母・君子(濱田マリ)が部屋から出てくる。

君子「あら、みどりちゃん。ムーくん(広一)いないわよ」

みどり「知ってます」

君子「じゃ部屋に入って待つ?」

みどり「お構いなく。私、今、見張ってるんで」


広一が尾行する江原老人は人気のないガード下にやってきた。

老人とは思えない移動速度に不審を感じた広一は物陰に潜む。

そこへ、山沢を屋上から蹴り落とした冴木(碓井将大)がやってきた。

冴木「なんだじじい、こんなところに呼び出して・・・なんのつもりだ」

江原「お前を手下にしてやろうと思ってな」

冴木「なんだと・・・こら」

しかし、冴木は言葉を飲む。不可思議な燐光が目の前の老人から発し始めたのである。

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冴木転送
冴木「なんだこりゃ」

江原「お前をまだ見ぬ世界に連れてってやるよ」

冴木「おい、よせ」

黒い光は、やがて冴木を包み込む。

緑色の発光が消失すると、冴木は暗闇に包まれいた。

広一「なんだ、まるでブラックホールみたいな」

一瞬で黒い影は消えて冴木も消失していた。

広一「人間消失現象」

広一は、あわててみどりに電話した。

みどり「もしもし広一くん?山沢くんいた?」

広一「ボクとんでもないものを見ちゃったよ・・・」

みどり「なんですって・・・」

広一は絶句する。目の前に江原老人が立っていたのだ。

江原「岩田広一に見られてしまいました。どうしますか?」

広一「・・・」

江原「わかりました。記憶を消去します」

広一「え・・・」

次の瞬間・・・顔面がよじれたように歪むのを感じながら広一は失神した。

みどり「広一君、どうしたの」

広一からの連絡が途絶えた後も、みどりは監視を続行する。

まもなく江原老人が帰ってくる。

街に黄昏が迫る頃、ようやく広一が電話を取った。

みどり「広一くん、一体何があったの?」

広一「わからない。ボクは、なぜこんなところに・・・」

みどり「おじいさん、帰って来たわよ」

あわてて自宅マンションに戻る広一。エントランスには思いつめた顔の咲和子も待っていた。

三人は再び、江原老人の呼び鈴を鳴らす。

室内では・・・。

江原「トランスフォーム(物質転送)は上手くいきましたか・・・」

典夫「ああ」

江原「あの連中はどうします」

典夫「僕が対応しよう・・・」

典夫は・・・ドアを開いた。

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咲和子
典夫「何だい?」

広一「あっ、いた。」

みどり「山沢君大丈夫?」

典夫「何が?」

みどり「今日、屋上から落ちたって聞いたんだけど。」

典夫「屋上から? 落ちたよ。」

みどり「大丈夫? ケガはなかった?」

典夫「ないよ。大丈夫。」

咲和子「いくらなんだって、骨ぐらい折れただろ。屋上から落ちたんだ。」

典夫「全然大したことないよ。」

咲和子「大したことないって、あんた、内臓破裂でもしてたら…」

典夫「屋上から落ちて、内臓破裂でも起こして、僕が今頃死んでるんじゃないかとでも思ったんだろう。そしたら冴木は殺人犯だ。君はそれを心配して様子を見にきたというところか。」

咲和子「なんだと?」

広一「山沢、そんな言い方ないだろう。みんな心配してたんだ。」

みどり「そうよ。今日だってずっとずっと心配して。もう何時間も。」

典夫「おじいちゃんを尾行したりかい?」

みどり「え?」

広一「知ってたの?」

典夫「おじいちゃんが言ってたよ。僕の体のことなら心配しないで。」

みどり「だったらいいんだけど…。」

広一「何か、気分でも悪くなったら、いつでも声かけてくれよ。」

典夫「ありがとう。じゃあ。おやすみ。」

仕方なく解散する三人だった。

室内には首に怪しい★(星型)の装置を付着させた冴木が横たわっている。

江原「こいつはどうなるんですか」

典夫「精神改造をするためには厳密な倫理規定がある。次元を異にするこの世界にそれを持ち込むのは無意味だが、とにかく何かに準拠しなければ装置が発動しないのだ。このものは非常にモラルに欠けた精神を持ち、悪の因子が適用基準値に達していたのでバイオアプリ(生体適性化プログラム)のアステロイド(人体隷属化装置)使用許可が出た」

江原「私のような役立たずと一緒ですな」

典夫「お前は違うよ。お前はどちらかと言えば無垢な状態だったので、モノリスのマギ(魔法機能)を分与している。非常に高価な精神制御状態だ。バイオアプリは使い捨ての消耗品だからな」

江原「悪の因子を除去するのですか」

典夫「いや脳内にバイパスを作り、個体の意識を遮断して、精神機能をコントロールするのだ。バイオアプリは言わば高度なリモコン受信機だよ。こちらの指示通りに個体を行動させるためのね」

江原「彼は永遠に奴隷ですか」

典夫「いや、およそ七日間で機能を停止する。バイオアプリは安価な消耗品なのだ。その後の精神状態については個体差があって断定できない」

江原「・・・」

典夫「このような個体をもう少し確保する必要がある」

江原「兵力の増強ですな」

典夫「うむ」


翌日、典夫は鎌仲才蔵(葉山奨之)にコンタクトした。

才蔵「こんなクズ野郎たちをリストアップしてどうするつもりだ」

典夫「人間はムダが多い。ちょっとしたところを修復してやれば、そんな人たちでも、立派に役に立つ人間になれる。」

才蔵「こいつらが? ないない! まともじゃねえんだから。なんつうか、人生諦めたって感じだぜ。」

典夫「大丈夫。そんな彼らに能力を与えるアプリがある。」

才蔵「能力を与えるアプリ? なんだよ?それ…。だったら俺にもくれよ。こんな自分が嫌なんだよ。」

典夫「そうか? そうは見えないけど。」

才蔵「嫌なんだよ。何もかもが。どっか遠くで、誰も知らないところで暮らしたい。親父がさ、再婚すんだよ。3回目だ。今度は弟と妹がついてくる。俺の母ちゃんはさ、離縁されて、パーマ屋一つ恵んでもらって生きてるけど、俺と会っちゃいけねえことになってる。そうだ! だったら親父を頼むよ。こりゃ本物の極悪人だ。一番酷いのを忘れてた。こいつを改造してくれ。」

典夫「キミの父さんか…。」


典夫は不良たちの溜り場となっている雀荘に乗り込むと★を健康器具と偽ってクズたちに装着することに成功する。

そこへ行方不明となった冴木を捜しに咲和子がやってくる。

咲和子「冴木を知らないか」

典夫「ボクでなければ死んでいたかもしれない。つまり彼は殺人者だ。しかも彼はその後で笑っていた」

咲和子「・・・」

典夫「あんなロクでもない男が好きなのか?」

咲和子「そんな悪いヤツでもねえんだよ。」

典夫「僕はあいつに屋上から落とされたんだ。僕だったから良かったけど、ホントだったらあいつは人殺しになるところだった。なのに、あいつ笑ってたろ。」

咲和子「震えてたんだ! …震えてたんだ。あの時、てめえが落ちて、笑いながら…でも、体は震えてた。」

典夫「だから、どうした?」

咲和子「別に…なんか話しろよ。」

典夫「君にとって幸せとは?」

咲和子「うぜぇこと聞くな!」

典夫「君には守るものがある。それが幸せなんじゃないのか?」

咲和子「知るか!」

典夫「いい子だ。僕はあの子にとって、いい事をしたんだろうか? 悪い事をしたんだろうか?」

被害者よりも加害者を案じる憐れな女子高校生は去っていった。

典夫「君の愛の因子も僕の愛の因子も愚かさや罪深さに変わりはないのかもしれない」

典夫は、奴隷化された冴木を従えて次の行動に移る。

D12世界の医療はかなり貧弱なものだったが・・・それでも被曝者である王女(杉咲花)のために治療体制を整えなければならない。

残り少ないモノリスのマギを使い、開業医を洗脳する典夫。

典夫「出来る限り、最高の放射線症の専門医を召集してもらいたい」

開業医「かしこまりました・・・」

後続部隊の転送期限は迫っていた。D12世界の人々は、侵略の開始に誰一人気がついていない。

【用語解説】
アステロイド・・・人を操るためのバイオアプリ、もしくは、操られている人(レイバー)の総称。悪の因子を持つ者だけにアステロイドの利用は限られるとD-12世界では定められている。操られている間は、別人のようになる上に、一度操られると二度と元の人格には戻れない。移植に時間がかかる上に、使用可能期限は1週間だが、モノリスのマギに比べて安価で、手に入りやすい。

マギ・・・人を操るためのモノリスのアプリ、もしくは、操られている人(レイバー)の総称。その名は「賢者」に由来する。アステロイドのように人格を変えるものではなく、操られている間の記憶は本人には残らない。モノリスの容量が続く限り、使用し続けることができる。

第五話終わり

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